池村明生 著

2008/01

 
『空間づくりにアートを活かす――ともにつくるプラスアートの試み

学芸出版社(定価2,625円、2006.05)


 本書は空間とアートの関係とその価値を、古くは公園や鉄道の駅前に鎮座する偉人たちの銅像の出現から考察し、現在における「パブリックアート」、「モニュメントアート」とは違う第三の表現としての「プラスアート」を提案している。
 それは、作品そのものの計画の段階から作品自身が存在する空間との関係を意識し、それらと調和することを目的の一つとして、作品が関係する建築や場の持つ意義や意味を表現する要素としてとらえることで、作品の存在する環境とそれに関ることを作品のテーマにしているものである。また、その空間に存在するプロセスに注力することを通じて、その空間に存在する人、もの、歴史を共有して理解しあえるようにサポートする存在であることを示している。
 本文は、3章に分けられ「プラスアート」が出現するまでの過程、制作の計画立案から実際の制作までを例示、そして作品の紹介から作品を制作するまでの注意事項と必要なイロハを著者の経験を踏まえて紹介している。
 しかし、その本文中において、アートとともに暮らす人びと、いわゆる住民がその空間を享受することに対しての視点を見つけることがやや困難に感じられた。同じ空間に存在することをテーマに掲げたアートであるということは、作る側の意気込みや試みを一心に伝えるだけではなく、その作品や設置された空間がどのような時間を住民たちと過ごしているのか、つまり本書のように、設置されることに対する実例をそのプロセスから紹介されていくと、その後の作品の存在についての議論にも興味がわいてくるということだ。

  著者は、アートと住民が空間を共有するプロセスの重要性を意識し、事例を一つひとつ紹介する中で、それらの関係が一過性のものではなく、その存在を確立させていくプロセスを通じて建築やランドスケープなどの空間とより密接した形でかかわりを生み出し、作品が新しい建築やまちづくりの要素となることを述べている。そこで、享受する側の視点、つまりは住民の視点と作る側の視点が同等に議論され、住民の作品のテーマに対する理解につながれば、より空間の意味性が深まるのではなかろうか。そんな興味を沸かせる上でも、「プラスアート」の表現方法とそのプロセスは、アートという行為に何ができるのかという新しい可能性を示している。本書は空間の構成におけるアート作品導入の実践とそのプロセスを知り、空間とそこに関係する人、もの、ことの関係性におけるアートの役割の様々な可能性を見ることができる一冊である。
(大阪市立大学大学院、
山田照明(株)デザイナー・竹中 寛)

書影イメージ

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