世古一穂 編著

2008/03

 
『コミュニティ・レストラン

日本評論社(定価1,785円、2007.10)


 2007年は「偽装」が食にも及び安全を脅かしかねない事件が多発した年であったが、今年に入っても問題が続いている。そのような折、安全な食の提供と地域に根ざしたミッションを共に追求する「コミュニティ・レストラン」(以下、コミレス)の包括的な紹介の書が、提唱者の世古一穂氏を編著者として出版されたことは意義深いものがある。そして本書の特色は、ページの半分以上を割いて全国でコミレスの実践に取り組む現場の責任者6人から具体的なリポートが示されていることである。
 コミレスとは「エコクッキング」(「身土不二」、「旬産旬食」「一物全体」などに留意した食材調達・調理・廃棄物処理)をベースに、@「安心安全な食の提供」のできる人材養成、A子育て支援など生活支援、B「障害者の働く場づくり」など自立生活支援、C「高齢者の会食の場づくり」などコミュニティセンター形成、D食を通じた循環型まちづくりといった五つの機能を追及する社会的起業である。
 コミレスは、1982年東京の国分寺市にある「でめてる」の実践から始まったもので、それを(特非)NPO研修・情報センターが支援・展開してきたプロジェクトである。2003年からは全国のコミレス実践者のための相互支援ネットワークが組織されており、その意義は大きい。
  コミレスは単なる営利の追求ではなく、社会的ミッションを持っているという点で、一般の飲食店とは異なる。コミレスは丁寧な地域課題の発見と掘り起こしから始めなければならない。事業である以上、収支規律を保つことは当然に要請される。ただそれだけではいけない。NPO運営の哲学が必要となる。コミレスは、広く地域の住民が参加しやすい開かれた組織づくりであることが重要である。責任者は狭義の経営者であるばかりでなく、地域の生産者・関係者・需要者をミッションに沸き立たせる「協働コーディネーター」(詳しくは世古氏の同名の編著書を参照)でもあらねばならない。

   釧路市、札幌市、青森市、浜松市、海南市、北九州市の6人の実践者からは、事業の経過や現状の課題、協働コーディネーターであることの苦労、そのやりがいと喜びが示される。巻末には、さらに多くのコミレスを含めた全国のコミレス・ガイドが収録されて参考になる。今後は「コミレス白書」のような形での現状のフォローアップと「コミレスの成果」を示していくことが望まれる。
 コミレスの実践は、民間企業で見落とされたり、行政での対応が不足している部面に焦点を当て、社会的サービス提供者としてのNPOや同じ精神を共有する主体が担ってなされてきている。そこでのコンセプト構築、課題の解決は私たち自身がこれから当事者となって形成していかなければならない市民社会の形成と密接に関わっている。本書にはコミレスを実践していこうとする人びとのみならず、社会改革に関心を持つ広い読者を期待したい。
(株式会社慶應学術事業会・茂木愛一郎)

書影イメージ

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