岡本哲志 著

2008/05

 
『江戸東京の路地――身体感覚で探る場の魅力

学芸出版社(定価1,995円、2006.8)


 「路地」という場の持つ魅力を文芸的な観点で語られたものは数多くあるが、本書は「路地とはどのような場であるか?」ということについてその歴史的な背景と成り立ちを分析し、イメージや感覚だけではなく、都市の中の場である「路地」の機能を踏まえて述べたものである。
 また、著者の生活の場である東京の路地の特色のあるものを、一つひとつその成立の背景から時代を追って考察してゆくことで、都市機能としての「路地」が、それぞれの時代ごとに担ってきた役割について理解できるようになっている。
 本書で特徴的なのは、「路地」の都市機能としての場の解説と分析に終始するのではなくその都市もしくは街の中で、有益な場として機能している「路地」を歩いて回る感覚をもって説明しているという点であろう。それは、著者の言う「身体感覚の物差」で、これまでわれわれが漠然と感じていた「路地」の雰囲気やイメージを分析、考察し、読者が漠然と持つ「路地」に対するイメージとの乖離を引き起こすことなく、著者の解説を受け止めることができるようになっていることにある。
 東京は現代の日本において、最も時代の流れとその速さをはっきりと映し出す都市であり、またそこに存在する人の数だけさまざまな表情を持つ都市である。それだけに、その時の流れが、そのまま都市の風景として映し出されてしまう都市であるともいえる。もちろん変わらないものも存在するが、それも含めて単純に語ることのできないさまざまな表情を持った都市であるといえよう。
 本書で取り上げられる東京の街は、例えば原宿、銀座、月島、阿佐ヶ谷などといった、どれも個性や魅力に溢れる街である。本書では、それらが、例えば江戸時代から文明開化を経た大戦後の現代までの時間の流れを経て、それぞれの街における「路地」が成り立ちや、その場としての「路地」の機能の違いが、街の持つ個性となって現れていることを述べている。

   それはつまり、「路地」という場は一朝一夕には完成しないことを示し、そこに住む住民の手によって育て上げられる場であることを表す。そのことを踏まえて著者は、本書の結びにおいて「時間の設計」という言葉を用いることで、魅力ある場が成立するためのプロセスの重要性を訴えている。
 本書の冒頭において、「路地探訪のガイドブックとしても使えるよう配慮した」とあるがその配慮以前に、路地という場の持つ魅力を真摯な目で追いかけた本書だからこそ、さまざまな魅力ある「路地」を尋ねてみたくなる内容となったのだろう。東京の「路地」という場の持つ魅力について語っている本書であるが、「路地」に限らず著者のいう「時間の設計」が作り出す「場」を、自分の住む街の周りで探してみたいと思わせてくれる、そんな一冊である。
(大阪市立大学大学院、
山田照明(株)デザイナー・竹中 寛)

書影イメージ

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