ガバナンス型まちづくり/コミュニティ・エンパワメント/まちづくり事業体/社会的起業―これからのわが国の創造的まちづくりの重要概念ばかりだが、みな朦朧としている。それがこの本ではすべて、まるで眼前の霧が晴れたように急に鮮明になった。
イギリス都市計画のおよそ100年の歴史的構造が、ハード・ソフト両面への視野の広さ、政策・制度の緻密な解析、計画思想と人間性への洞察、この三者の統合を通して語られている本書は、最初から最後まで一気に読ませる不思議な迫力がある。
本書はイギリスの状況を語りながら、わが国のこれからの都市再生・まち育てに深い示唆を与えている。そのポイントは多岐にわたるが、ここでは次の4点をあげたい。
1.ガバメント型都市計画からガバナンス型まちづくりへの転換:公的関与を強めればいい物的空間が形成されるとしてきた「統治(ガバメント)型都市計画」は、自立的まちづくり事業体が拠点ネットワークで連携し、個人とコミュニティの自主管理能力を高める「協治型まちづくり」に構造的にシフトした。
2.協治型まちづくりの担い手の社会的企業=まちづくり事業体の成立:社会的企業の定義は「社会的目的をもち、株主の利潤を最大化させるというよりは、原則的に余剰をその事業かコミュニティに再投資し、社会変革を目指す事業」である。今日、イギリスでは福祉サービスや都市再生の領域の社会的企業に約80万人もの雇用を生み出している。まちづくりでメシが喰える仕組みを成立させていることが注目される。 |
|
3.まちづくり事業体がコミュニティに眠っている資源を発見し、土地・建物の経営を行い、地域住民に生きる力と社会性を育てることを結合:住民参加の制度化を越えて、地域の問題を解決する現実的な制度を現場から組み立てる個人を育成しつつ、まちの元気を呼びさますまち育ての実現方策として、アセット・マネジメント力の確立は大きい。
4.市場原理と非市場原理のアクションを統合しつつコミュニティを企業化する仕組みを開発:行政・地域諸団体・民間企業等が対抗的相補関係の生成過程を通じて、コミュニティ・マネジメントの術を獲得しつつある。ロンドンのコインストリートでは「まちづくり事業体には市場の荒波に耐える効率性と収益性が問われている」の観点から、コーポラティブ住宅と最高級レストランが同居している。
本書は、社会的企業による都市再生過程を理論的に解明するとともに、典型6事業体のケーススタディを添えて、理論と実践の融合を鮮やかに示している。そのことに10数年を費やした都市計画・社会学の専門家のコラボレーションは見事である。著者の知的統合性=体系性への意志に敬意を払いたい。これは日本の創発的まち育ての教科書になる本だ。 |