月刊ウインド250号記念
新潟・市民映画館鑑賞会

2008/10

 
『街の記憶 劇場のあかり――新潟県 映画館と観客の歴史』

新潟・市民映画館鑑賞会(定価1,800円、2007.11)


 本を手にして感じたことは、この重さ・ボリュームそして、200ページにも及ぶ豊富な内 容。本書をまとめあげた斎藤正行氏、新潟・新潟映画館鑑賞会、編集スタッフのみなさまの情熱と粘り強い努力に心より敬意を表します。
 「映画が20世紀の総合芸術」と言われていることとは裏腹に、たとえばこの様な「映画館」についての記録は、市町村レベルではほんの一部しか記録されていないのが現状です(私の住む埼玉県深谷市の「市史」の中では、僅か3ページしかその記録はありません)。このことは行政と興行側双方ともに、「映画」の持つ公共性や文化性についての共通認識がないという悲しい現実に起因しているといえます。この本の特徴は、その対象エリアが市民映画館「シネ・ウインド」のある新潟市のみならず、新潟県全体をエリアとして調べぬいたことに大きな意味と後世への価値があるといえます。都市はもちろん郡部の町や村でも地元で映画を見ていたという事実に大変驚かされます。今日では、郊外型の商業施設と併設の複合映画館(シネマコンプレックス)の進出で中心市街地の空洞化と「街なか映画館」の閉館が加速度的に進行しています。そのような現状を思うと、昔の方が街なかの賑わいと商店街の活力が大いに盛り上がっていたことが想像できます。山田洋次監督が以前言っておられた「映画館も商店街もコミュニティの文化なのです……」を思い出します。わたしたちの「深谷シネマ」は6年前に商店街の空き店舗(旧銀行跡)を改装しNPOで運営している50席の名画座です。視点を変えれば「映画文化の振興とまちづくり」を目的に市民と行政が協働すれば<街の映画館>の復活が可能な時 代の到来ともいえます。

   さらにこの本の素敵なところは、「新潟映画行進曲」に見られるような<聞き書き>や<記憶と思い出>など当時の関係者や市民が直接語っているリアリティさが嬉しいです。加えて当時の写真やイラストなどもあって、楽しい紙面づくりになっています。
 最後に、「はじめに」に「…映画館百年の歴史は、映画館だけの歴史ではありません」とあるように、その地域の歴史と「映画館」とともに生きた先人たちの記憶を記録する作業であったことが理解できます。街の「映画館」の記憶を紐解くことが、街の記憶をも蘇らせる営みであることを教えてくれたこの本をバイブルに、近い将来、深谷市を含む埼玉県の「映画館」と街の記憶を記録としてまとめることを心に決めて感謝とします。
(「深谷シネマ」支配人・竹石研二)

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