宗田好史 著

2008/11

 
『中心市街地の創造力――暮らしの変化をとらえた再生への道』

学芸出版社(定価3,360円、2007.12)


 個人的な物言いになるが、今自分がどのような時代に生き、または、自分の生活の様式は何に重きを置いているのか、実際に言葉にして表されることで、何となく感じていた変化をはっきりと認識し驚くことがある。
  商店街が寂れる、駅前はどこでも見かけるような同じような店ばかり、これらの原因は一体なんなのか? 誰がそんな風にしてしまったのか? どうすれば地元に活気が戻るのか?
  本書の読後感は、まさにその現実を感じたものだった。
  本書は、著者が拠点を置く京都の都心における変化の分析を中心に書かれている。前半は現在進行形のわれわれの暮らし方とそれに合わせた商形態の変化を分析し、現状の中心市街地におけるある種の幻想に対して真っ向から異義を唱える。後半では著者の関わった実例を通じて述べ、時代の変化に沿って都市とそれに伴う文化を形作る人間が変わっていくための方向性を指し示した。
  例えば、前半の第3章にある「女性化する都心」は、京都の現状をつぶさに分析し観察した著者の実感をふまえながら述べられ、都心の商業がターゲットとする層の変化だけではなく、それらすべてに関わる事柄が女性主体に変わっている現在の都市の状況を示している。
  それは、それまで都心のビルに集中していた東京に本社があるような大手企業のオフィスが撤退した後、それらの空きテナントを埋めるように美容室やエステサロンなどのサービス業が入居している実態の報告からも理解できる。
  そして後半では、都市経済学者のリチャード・フロリダが唱える「創造階級」が、日本の地方都市においてはどのような人たちであるかという点についても議論を展開している。それは、都市の
  文化を作り上げ、盛り上げる人たちの中心が、その都市で生活し、「地元」を盛り上げ、そこでの生活が楽しくなるようにしたいと創意工夫を行う事業者たちであるという。
  その記述と平行して、都市の再生において、著者の自らが関わった京都や金沢といった歴史的都市の計画を例にあげ、日本の地方都市の再生に関わるさまざまな自治体や地元住民の役割を示した。その例示は、著者自身がぶつかった日本の都市計画や再開発が抱える現状を生々しく伝えてくれる。
  都市に対する論の展開や提案はいくつもあるだろうが、本書のように第一線の研究者が自身の持つ情報をこれでもかと盛り込み、地に足をつけて訴えかけるものは少ない。
  海外の先行例の紹介や、すばらしい理想の提案の先にある実践者としての産みの苦しみを伝えてくれる、そんな一冊として本書をおすすめしたい。
(大阪市立大学大学院・竹中 寛)

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