日本カラーデザイン研究所 著

2008/11

 
『地域イメージを活かす景観色彩計画』

学芸出版社(定価3,675円、2008.4)


 2004年に景観法が施行された。「良好な景観」を皆が共有し、それをつくっていくための方法が制度化された、と言えよう。そして、この法律制定の最も画期的な点とは、良好な景観に向けての問題意識がより高まるかもしれない、という期待がもてることである。景観形成の中で考えるべき構成要素は数多くある。建築物の高さ、形態、意匠はもちろんのこと、「色彩」も当然含まれるべき重要な要素である。
 本書は、景観の色彩について考える際に、特に実務的な側面で参考とすべき方法論を具体的に紹介している。もともと著者の日本カラーデザイン研究所は、色彩イメージを一目でとらえることのできるカラーイメージスケールという独自のシステムを考案したところでもある。それをこの景観色彩についても景観イメージスケールとしてアレンジし活かしているのである。
  ある地域にとってふさわしい景観色彩を導き出す場合、その地域の特性を明らかにするために住民アンケートをとったり、住民が地域を見直すためのワークショップを行うことがある。その際に、このカラーイメージスケールを用いることによって、地域の色彩に対しての共通認識が得られやすく、色彩計画の方向性も考えやすい、ということである。実際に、色彩計画を進めていく過程では、さまざまな調査を行うのだが、その結果得たデータを事業者や行政、住民が理解し、お互いにわかりやすく説明するためにこのカラーイメージスケールを用いることは、確かに有効な側面をもっていることは否定できない。
 景観形成を考える際に地域の特性を活かすことは重要な視点である。その地域特性を一般住民が思いおこす場合に、視覚的にわかりやすく記憶にも残りやすい「色彩」を媒体にすることは比較
  的容易だと考えられる。となると、色彩は良好な景観形成における要素の一つであるだけでなく、むしろ地域の特色が一言で説明できない場合に、言葉になりかわって伝えてくれるものとも言えよう。すなわち、地域の特性をあらわす色自体が良好な景観にとって欠かせない要素である、と言ってもよいのである。
  こうして色彩によって地域の特性を導き出すことで良好な景観がつくられるのだ、ということを頭に置きつつ本書を読み進めると、ここにある色彩計画の実務的解説がより説得力をもって感じられるであろう。
 他にも、色彩ガイドラインの策定から運用までのフローや色彩計画の手順についても具体的な事例をもって説明されている。本書に触れることで、色彩計画に関わる人たちだけでなく、一般の方にも周囲の景観の色彩について興味をもってもらえることができるわかりやすい実務書である。
((有)センスアップ・プランニング代表、
カラーコンサルタント・成田イクコ)

書影イメージ

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