大阪市街地再開発促進協議会 編

2009/01

 
『都市再生・街づくり学――大阪発・民主導の実践』
創元社(定価2,520円、2008.06)

 大阪から都市再生・街づくり学が発信されることの意味は大きく、深い。この分野で悩んでいる人にとって、このような大阪の知恵をご存じないとしたら、それは本当にもったいないことである。本書には「大阪の先進事例には、都市再生のヒントがいっぱい詰まっている」との看板が掲げられているが、期待を裏切ることはない。それは、一つには大阪の来し方、行く末、得意分野を踏まえ、一方で脱・東京の都市再生ということに立脚しているので、なおさら説得力と具体性があるからである。まず、大阪の歴史的な得意分野を改めて理解できる。関西には、街づくりに対して、問題解決型で、これに合わせて方法をカスタマイズしてきた伝統がある。そして、さまざまな立場の人びとが得意の分野で、成果を上げてきた。そこには、地に足のついた民主導の長い歴史があり、多様で豊かな知恵が詰まっている。「新しい方法を生み出し、改良を重ねてきた専門性の蓄積をもつのが大阪を中心とする関西。都市のルーツにみられる民間企業による長期の視野に立った計画開発、近年の住民参加による協働の街づくりシステム、界隈をマネージメントする仕組みなど、多様で豊かなソフトがこの都市には充満している」(高田昇氏)と高らかに宣言されているのである。
  しかし、「東京と大阪が核となって日本の発展を牽引するというシナリオは有効性を失っており、大阪は、東京と同じ方向を向いて都市の再生を進める限り、競争に耐え切れず現状維持も難しいだろう」(守井辰氏)と虚心坦懐に認めて、だからこそ方向性が確かで、具体性のある提言が続く。この脱・東京都市再生という姿勢が今日的な街づくりへの取り組みの先進事例を開拓することになるのではないかと期待が膨らむ。
    身の丈再開発への転換、ストックの活用、ニュータウンの成熟・再生、路地・長屋の復権・再生、郊外都市・歴史都市の保全・再生、震災復興事業の継承、市街地再々開発。これらは本書で取り上げられた課題であるが、このラインアップを見るだけで、今日的な最先端の課題が網羅されていることがご理解いただけよう。そして、創造都市への試行、そして官民協働、新制度の創設に向けた行動がすでに始まっていることが紹介されている。「行動都市大阪の実像が、全国の次世代型の街づくりに具体的性をもつ指針」(野村武彦氏)となるはずである。
 とにかく執筆陣が壮観である。長らく関西の街づくりを支えてこられた先達、精鋭のリレー方式のメッセージであり、最後に伊藤滋先生の特別寄稿を加え、これまでの大阪を語るのではなく、将来に向かって都市再生の転換点に立った行動計画への提言となっているとともに、索引、関連文献も丁寧に示され、しかもコンパクトなエンサイクロペディアに仕上がっている。
(東京大学先端科学技術研究センター教授・
遠藤 薫)

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