山崎朗 編著・譛九州経済調査協会・譛国際東アジア研究センター 編

2009/01

 
『半導体クラスターのイノベーション――日中韓台の競争と連携』
中央経済社(定価3,150円、2008.09)

 1年間で5分の1というメモリー製品価格の急落は、世界の半導体産業が直面している苛烈な現実を象徴する出来事といってよい。本書は、その半導体産業の今後を、生産ならびに市場の「双方で約半数を握り、日増しに存在感を高めている東アジア各国」に焦点をあわせつつ考察した注目すべき労作である。いま東アジア各国といったが、本書の特色は、対象とされた日本・中国・韓国・台湾の個別分析にとどまらず、「グローバル産業クラスター」という新概念のもとに東アジアという単位での分析を試みた点であろう。
  日・中・韓・台各国の「半導体クラスター間の技術親和性と個性化によって、アメリカ、EUに対して、東アジア半導体産業全体の競争力、生産性が上昇し、イノベーションが生起している」というのが本書の基本的な認識である。「最先端の素材、部材、部品、製造装置メーカーが韓国国内に少なくとも、特定の半導体製品の開発、製造において世界のリーダーとなることができた」のは、グローバルな戦略によって「日本の関連・支援産業との取引・共同開発ネットワークを形成」することで自己の弱点を補完しえたからであった。このように複数の産業クラスターが国境をまたぎつつ相互に補完し強化しあっている状態こそが、いうところの「グローバル産業クラスター」なのであるところが、そうした優位性をそなえた東アジアに位置しているにもかかわらず、日本の半導体産業は長期凋落の一途をたどってきた。本書によれば、その理由は「総合電機メーカーの総合性の利益という幻想」にある。有力なライバルの登場で「大手垂直統合デバイスメーカー」の世界シェアは低下し大幅な減益が発生したにもかかわらず、「素材、部材、部品、製造装置メーカー」の利益増がそれをカバーし、結果として事態は看過されてきた。
    日本の半導体産業が再生を果たすためには、総合電機メーカーというビジネスモデルと訣別しなければならない。その場合に重要な役割を果たすのがシリコンアイランドともよばれる九州である。九州における半導体クラスターの展開方向を本書は、東アジアにおけるポジショニングに留意しつつ、自動車産業との融合をはじめ最終製品メーカーとの技術的な交流・対話にむけて、産学連携や国内を含むアジアの半導体集積拠点との連携を進めながら、ビジネス資源の選択と集中をはかり「成長する世界市場の動向に対応した製品戦略」を構築するところに求めているが傾聴すべき指摘といえよう。
  本書のベースは、地方シンクタンクの雄である九州経済調査協会が創立60周年を記念して国際東アジア研究センターと連携しつつ実施した共同研究である。こうしたグローバルな視点から地元の問題関心を取り上げた研究が発信されるところに九州の地力をみるおもいがする。
(釧路公立大学経済学部教授・加藤 和暢)

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