平成の市町村大合併に後世その功績を認める機会があるとすれば、自治基本条例の制定を大いに促したことはその一つとして指摘されるであろう。20世紀末に112を数えた新潟県内の市町村は今日では31にまで減ったものの、自治基本条例をもつ市町村は6(関川村、新発田市、新潟市、柏崎市、上越市、妙高市)に上る。市町村合併を拒んだ自治体も、14市町村を合わせて合併した自治体も、合併の可否、新市のありようを真剣に検討する過程で、主権者としての市民と自治体の新しい関係を構想するに至ったのだろう。
本書は、このうち新発田市の「市民参画と協働による新発田市まちづくり基本条例」制定に尽力した2人の行政学者自らが条例そのものと制定過程を紹介したものである。著者らと同じ大学に勤め、自治体や地域活動のお手伝いする機会をもつ評者が本書を読んで興味を引かれたのは、次の2点である。
まず「まちづくり」という術語の定義。筆者のひとりは「『まちづくり』という言葉は、都市計画というハードウェアの整備を念頭に置いて使われることが一般的かもしれません。…(中略)…しかし、今回の条例での『まちづくり』という言葉は、…(中略)…その地域の住民が、その地域の公共的課題を解決していく営為それ自体をまちづくりととらえた」(17・19頁)とし、同旨の記述が本文に繰り返されるほか、資料編に収められた「新発田市まちづくり基本条例――市民提言書」「市民参画と協働による新発田市まちづくり基本条例――逐条解説版」でも繰返し述べている。「まちづくり」という術語の起源や展開についてはつとに議論のあるところ、新発田市ではまさに自治そのものを「まちづくり」と表現したのである。 |
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次に興味を覚えたのは、「まちづくりの主体」について明確な方向を指し示さなかったことである。著者のひとりは「今後民間でまちづくりを進める主体となるのは…(中略)…考えられるものに町内会・自治会やNPOがあります」(50頁)としつつ、「本条例では、まちづくり団体について何の規定も置かれていません」(53頁)としている。そしてその理由として「1)まちづくり団体に特別の位置づけ、権限は与えない 2)各種審議会・議会との役割分担を明確にする必要がある」ことを挙げている。この点、新潟県内には、町内会・自治会を市民自治の核とする例(新潟市)や合併前の旧市町村を都市内分権の基礎としている例(上越市)も見られる。その中で市民参画の主体の方向を示さない決断をしたことは興味深い。反面、その分だけ「参画と協働のしくみ」(第3章)が、政策形成への市民の参加を想定しているのか、あるいは民間による事業の提案・実施を想定しているのかわかりにくくなっているのかも知れない。いずれにしろ、現場に深く関わった研究者が自らの軌跡を検証している興味深い1冊である。 |