民族を基本とした近代国家が、地球時代の基礎的社会として認められてから、国家とは国民と国土から成るという定義が成立したといえる。この結果国家としての国土政策は、国民の長期を見通した意志と国民生活の舞台となる国土の未来像をまとめ、内外に示す根幹的政策と認知されたといえる。地域開発はその一部をなす地域の長期かつ未来像構築の社会的意志であり、その政策的行為といえる。
以上のことから国土政策は、国民各位の理解と協力の上に政策立案がなされなければならないが、海外の国々に比し、わが国では島国のせいもあり、国土に関する国民意識は、必ずしも高くない。政府が策定する国土形成計画は、この点も踏まえ地方との協働を大前提にしたが、本書は正面切って国土を改めて考えようと訴えた。
著者は現在社団法人土木学会会長の要職にあり、過去長年に亘り国土行政に従事してきた実 績を踏まえてとりまとめただけに、国土問題の広さと大きさを十分周知し、国土そのものを定量的定数的に取上げるのではなく、国土を認識する国民の国土観こそが課題だとして、明治政府の国土観を瀬戸内文化と雪国が折りなす国土として、また積雪寒冷地域の定着や日本列島改造論の背景に触れ、理想的国土観のふるさとが心底にあるという民族的深層心理を抉り、こうした国土観は民族により異なることも比較している。また国土観は評価する立場と利用する立場があり、本書は後者からの立場といい、さらに大陸国家と異なり海からの国土観こそ日本の今後の国土観と提案している。
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この提案を補完するものとして森地茂、塩野七生、宮台真司の三氏との対談を第2部としているが、これも読み応えある130頁となっている。 |