海老塚良吉・寺尾仁・本間義人・尹載善 

2009/07

 
『国際比較・住宅基本法―アメリカ・フランス・韓国・日本』
信山社(定価定価2,940円、2008.12)

 著者らの住生活基本法に対するスタンスは明快である。すなわち、「基本法と名称を付すからには、憲法が明示している社会権の一つととらえられる国民の居住権をどう保障するかに触れられていなければな(らない)」。このことを検証するために、近年に住宅法またはこれに準ずる法について改変のあったアメリカ、フランス、韓国の各法をとりあげ、日本の住生活基本法との比較・検討を試みている。各法の内容の解説のみならず住宅政策の歴史的経緯(政治・経済情勢と住宅政策の変遷)や現況の課題が概説されコンパクトに各国事情が把握できる。また、各章の末尾に法律そのものを掲載しており、その構成や内容の理解に役立つ。他国の法に照らすことは、日本固有の特質や課題を明確にする。特に隣国の韓国を比較の対象に含めたことで、それはより有効となった。
  本著で触れる各国の法律は、厳密には住宅基本法ではない。住宅政策の基本を規定するものとして、アメリカでは1990年住宅法を、韓国では住宅法をとりあげている。一方、フランスのDALO法は居住権保護立法として注目したものである。いずれの著者もその点を踏まえ、基本法の概念に照らせる範囲で比較・検討している。比較のポイントを絞ったことで、日本の住生活基本法との違いがクリアに描写されている。しかし、もともと基本法でない法律との比較・検証には若干無理があり、そもそもの本著の意図が削がれてしまった印象を受ける。
 居住権について、住生活基本法では、「・居住権は、包括的な権利として基本法制に定めることについての国民的コンセンサスがあるとはいえない、・住宅困窮者の安定した居住の確保を住宅政策の基本理念の一つとして位置づけ、これを踏まえて、公営住宅制度をはじめとする必要な個別具体の施策を講ずることにより、住宅分野における憲法第25条の趣旨の具体化に努めるべき」
  (『逐条解説 住生活基本法』p.85)との判断からその記載が見送られた。現行の政策は、「雇用政策」や「所得保障」を優先し、所得によって市場の中から住宅を獲得するという流れであり、住宅政策の役割は主にそのための市場整備と補完に限定されている。
  居住権の保障を当然とする著者らのアプローチは大いに共感できるが、そもそも日本の住宅政策に福祉政策としての視点があるかどうか。まずは居住保障の意義を再確認する必要があろう。日本では住所・住居がないと社会保障を含む他の権利にアクセスできないのが現状である。単なる公平性や所得再分配という福祉政策的意味合い以上に、居住保障が持つ意味は大きい。さらに、政策としての効率性と公平性の観点から、「雇用政策」や「所得保障」よりも「住宅政策」として居住権を保障する方が有効であることを実証することができれば、本著の主張はより明確になることだろう。この点について、著者らのさらなる論考を期待したい。
国立保健医療科学院建築衛生部
主任研究官
阪東美智子

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