本書の題名に「+(プラス)」と書かれていることに注目してほしい。まち歩きはブームになって久しく、各々のまちの魅力を伝える本はごまんとあるが、どうしたらまちの魅力をうまく語れるかを教えてくれる本は少ない。これまではそういう本を探そうとすると、下手をするといきなり『解説・都市計画』みたいな教科書にたどり着きかねない状況だった。
本書はそんなニーズに見事に応えてくれる。まち歩きを好む人の中には、魅力あるまちを自分が楽しむだけでなく、人にそれをうまく伝えられたらなぁ、と思っている人も多いだろう。本書には、どんな視点でどんな風にまちを歩けば、その魅力をうまく説明できるかが、豊富な具体例を交えながらよく整理された形で解説されている。
半日で周れるくらいのまち歩きコースが、柔らかめの地図とたくさんの写真で示されている。説明はそれぞれのポイントで1〜数段落と短く簡潔ながら、まちづくりの基本的な知識をそれとなく押さえているので、読みやすくかつ勉強になる。そういう意味では、都市・建築やまちづくりを学び始めた学生さん向けといえるかもしれないが、私はむしろ以下のような人たちにも勧めたい。
たとえば定年を過ぎた団塊の世代の男性は、それまで(うわべでは)話をよく聞いてくれた部下がいた職場を離れ、家にはそんな人は無論おらず、孤独に過ごしている。一人カメラ片手に古いまちなみを撮りまくっても寂しさは募るばかり。本書には、そんな人たちが再び主役になるべく、まち歩きをイベントとしてどのように開催すればよいかが、懇切丁寧に書いてある。谷根千、川越、月島など渋めのコースからもよく学べる。 |
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あるいは、もしかしたら婚活にもけっこう使えるかもしれない。この本でデートコースのポイントを押さえつつ、カノジョ(あるいはカレシ)にまちを語ってみるのはどうだろう。もちろん一方的にうんちくを披露するだけではうまくいかないけれど、本書には「一緒に歩いた人と感じたこと、気に入ったことを語り合うのも楽しい」とも書いてある。代官山、表参道、横浜といった定番のまちでも、本書を読んでワンランク上のデートを目指そう。
おもしろおかしく書きすぎたかもしれないが、今まで自分の住んでいるまちに関心がなかった層、たとえば上の例のような人たちが、こうしたきっかけから自分のまちに興味を持ち始め、まちづくりに参加するかもしれない。そんな意味でも、本書が持つ可能性はかなり大きい。 |