山本茂 著

2009/10

 
『ニュータウン再生――住環境マネジメントの課題と展望』
学芸出版社(定価2,415円、2009.5)

 現代の都市が抱える課題の一つが、ニュータウン(以下「NT」と言う。)のオールドタウン化である。なかでも1962年にまちびらきした千里NTは、その象徴としてしばしば引き合いに出される。開発当初は「東洋一の理想都市」と呼ばれ、わが国の都市開発のモデルにもなってきた。今でも千里ブランドとして人気の高い住宅地であるが、誕生から40余年が経過するなかで、人口減少・少子高齢化・住宅施設の老朽化等の課題が顕在化しはじめ、その再生が急がれている。
 本書では、千里NTの40余年の歴史の中で様々な主体による再生に向けた軌跡を辿り、NTの熟成過程における住環境マネージメントのあり方が三部構成(「市民」「行政」「新しい公」)で提案されている。NTの再生や維持管理に日々苦闘し、解決策を模索している関係者の方へ是非お薦めしたい一冊である。
 第1部で著者は、市民による住環境マネージメントの一つを、“反対を中心とする”住環境保全運動と呼んでいる。地域情報誌「千里タイムズ」の40数年分の記事を丹念に分析するなかで見えてきた軌跡であるが、NTの特徴を上手く表現している。そして今後は集合住宅の建替え等によって、戸建住宅地区よりも集合住宅地区における住環境の保全・育成が重要課題になるとの指摘は、私も同感である。
 第2部では、「千里センター」「吹田市・豊中市」「大阪府」の役割の変遷とその背景が書かれている。大阪府の財政事情に加えて、千里NTの成熟化に伴う様々な課題やマンション建替に伴う住民間の軋轢が発生するなかで、行政による住環境マネージメントのあり方も変化した。これからは吹田市と豊中市を中心に、大阪府その他の関係者が協働してマネージメントを進めるのが現実的・効果的だと著者は主張する。また今後、公的賃貸住宅の建替や再生が本格化することで、とくに住宅管理者の役割と責任が一層重要になってくるだろう。
   第3部は著者が最も主張したい本書の要である。NTの成熟化に伴う課題の解決や活力あるまちづくりに向けた地元市による取り組み、住民・NPO等の多様な主体による活動を、著者は“新しい公”と呼ぶ。著者が代表を務める「NPO千里・住まいの学校」を含め、様々な市民グループを中心とする活動が紹介されており、新しい潮流を感じさせる。そして最後に著者は、千里NTの再生の鍵は住民・市民グループ、地元市を中心に、大学・NPO、大阪府・タウン管理財団、公的賃貸住宅管理者、建設関連事業者、商業者等の“新しい公”による協働が必要と提言している。この点について私は、協働に加えてまちづくり全体の視点を持ち、関係者を取り込んで再生を強力に推進できる“場回し上手なリーダー”によるマネージメントが欠かせない、と思う。
  ストック活用の時代は、マネージメント能力が厳しく問われる。NT以外のまちづくりの現場でも本書は大いに参考になるだろう。
(大阪市立大学大学院・菊池浩史)

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