W. Kil+G. Zwickert 著、澤田誠二・河村和久 訳

2009/12

 
『ライネフェルデの奇跡――まちと団地はいかによみがえったか』
水曜社(定価3,885円 2009.9)

 タイトルをめくると、見開きいっぱいに広がるライネフェルデの写真が目に飛び込んでくる。オレンジ屋根の市街と、工場だろうか大屋根を持つ建物がいくつか、そして、それぞれに表情を違える住宅団地が、緑の中にゆったりと配置されている。 ライネフェルデは旧東ドイツ下で工業化のシンボルとして人口が急増した。1960年代初めに2,500人だった人口は、1986年には16,500人となった。ところが、ベルリンの壁が崩壊するやいなや、工場の消滅がはじまった。まちの最大雇用者を失いライネフェルデは危機を迎える。そこから、はじまった下降への悪循環を止め、いかにまちを再生していくか。本書はそのプロセスと成果を整理している。まちがどのように変容していったかが、わかり得る多くの写真を掲載し、再生に関わった人びとだけでなく、そこに暮らす人びとの言葉も顔写真を添え綴っている。
 まちの再生について主に描かれているのは、人口急増期にコンクリートパネル工法により多く供給された住宅団地の再生である。ライネフェルデの住宅の90%を占めていたパネル住宅を減築や撤去をしながら、住戸平面を多様化させ、あわせて街区形状を改良していった。解体された住宅のコンクリートパネルの再利用についても紹介がされていて興味深い。市民ホールや職業学校、保育所など既存の公的施設についても改装や改築が行われている。縮退の局面にあって、ライネフェルデでは、ただ、まちを縮小させるのではなく、計画的にまちの再生が行われたことがわかる。工事中の写真や、模型や図面が多用されていることは、専門家を含む多くの読み手にとって、ライネフェルデで起こったことを理解するのに役立つだろう。

   ラインハルト市長や、都市のマスタープランをつくったシュトレープ氏、州政府のシュミット氏のそれぞれに立場の違う3人のインタビューにも多くのページが割かれている。ここでは、行政や都市計画プランナー、建築家がいかに機能し、住宅組合や住民がどう関係していったかが語られている。補助金や、ライネフェルデの将来についても触れられている。
  読み進むうち、冒頭に書いた見開きいっぱいに広がるライネフェルデの写真のページを何度も開くことになる。それぞれの位置関係を確認しながら美しい写真をしばし眺め、ここで起こった奇跡について思いをめぐらせる。そして本書を読み終えたとき、ようやく表紙の写真の意味がわかるだろう。それは過去と現在をつなぐ記憶の断片であり、未来へ通ずるゲートでもあると。
 本書の作成にあたっては原著のデザインを変えず、文のみ入れかえてあるとのこと。美しい写真が多く使われていて、それを見るだけでも十分楽しめる仕上がりとなっている。
(大阪市立大学大学院創造都市研究科・
久保園洋一)

書影イメージ

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