世古一穂 編著

2010/1

 
『参加と協働のデザイン――NPO・行政・企業の役割を再考する』
学芸出版社(定価2,625円 2009.10)

 編著者の世古一穂氏は、市民活動における「参加と協働のデザイン」の提唱者として知られている。本書は、NPO法制定後10年が経った今、そこにある課題を踏まえて旧著を見直した「参加と協働のデザイン」の決定版といえるものである。
 全体の構成は4部からなる。第1部は「参加と協働」に関する世古氏の論考、第2部と第3部は様々な実践の広がりと協働のあり方について、「参加と協働のデザイン」を実践する6名の著者からの報告である。そして第4部において、参加・協働型社会にはそれを支える思想が必要であるとして「公共哲学」を取り上げ、哲学者の金泰昌氏との対話を通してそれが浮き彫りにされる。市民参加が成果をあげるためには一定の技法が必要であり、それが「参加のデザイン」である。また市民セクターと行政セクターを繋ぐ真の意味での「協働」を成立させる条件設定が「協働のデザイン」であることが語られる。ここでは第1部第5章の『「協働」再考』をみてみたい。
 現段階の行政とNPOのいわゆる協働は、ほとんどが自治体サイドからの支援・育成型であり、これは本来の協働ではないという。自立したNPO活動への理解、協働関係への正しい認識、同時にNPOを特別視することなく公正な競争環境に置くことの必要性を説く。民営化路線の中で多くみられたことはNPOの下請化でしかなく、なぜその事業領域に協働が必要なのかの問いかけが不足し、役割分担の明確化、「協働のルール」づくりの必要性が指摘される。一方でNPO活動は独りよがりであってはならず、第三者による評価を組み入れるべきことが強調される。

   また本書には、次のようなメッセージも含まれる。NPOが関わるような施設・サービスの利用者、プロジェクトの参加者は単なる利用者・顧客としてだけでなく、公共性の発現者としてそれらに積極的に参画する姿勢が求められている。このことはNPM( New Public Management)で喧伝される顧客主義を越えて、公共サービスをそもそも求めた主権者としての姿勢・覚悟を再認識し、市民社会の形成と深く関係することになる。これは、今日唱道されるNPMへの鋭い批判となっている。
  そこでNPMを越えるために求められるのが「協働コーディネーター」である。それを「官」や「行政」といった既往の「公」の専有物ではない市民にとっての「公共」を創造するために必須の職能と位置づけ、社会的に認知されるべきことを主張する。それ故に「協働コーディネーター」には、直面するテーマに対し有効な代替案や解答を提出できるだけの力量が求められる。
 実践者からの報告部分では、いずれも「参加と協働」を現実に進める場合に遭遇する問題、課題に触れるところがあり、大いに参考になることも付け加えておきたい。
(慶應学術事業会・ 茂木愛一郎)

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