矢作 弘 著

2010/3

 
『「都市縮小」の時代』
角川書店(定価740円 2009.12)

 城山三郎氏原作の『官僚たちの夏』というテレビドラマがあった。第1話で国民車構想を打ち出し実現に尽力した主人公は、将来は一家に一台という時代を夢見る。自動車の普及は経済発展のみならず、モータリゼーションという形で都市の郊外化も生み出した。人口の増加=都市の発展であった時代。
 それから50年。人口減少時代、低炭素都市、都市縮退……最近の都市計画や地域政策の主題である。若輩の評者ですら、時代が大きく変わったことを実感する。本書は、われわれが生きてゆく都市縮小の時代に何が起こっているのか、何が起こりうるのかを、国内外の豊富な事例から描き出す。そして、マイナス面ばかりが強調されがちな「都市縮小」を前向きに捉えて光を見出そうとする。著者はこのことを「都市規模の創造的縮小」と呼ぶ。
  第2章では、アメリカの産業都市の現状が描かれる。ヤングスタウンやデトロイトにみるインナーシティの荒廃、空き家の増加と治安の悪化のくだりは読んでいて空恐ろしくなる。そんな街に賑わいを取り戻す手がかりは、過去の栄光を捨て「賢い縮退」を目指す覚悟(ヤングスタウン)、官民のパートナーシップ(セントルイス)、製造業でなく都市農業(デトロイト)、デザイン(クリーブランド)、メディカル(バッファロー)といった新しい活力である。
 第3章は旧東ドイツの都市の事例である。社会主義体制の崩壊というアメリカとは異なる時代背景があり、欧州統合の負の側面が表れているとも言えよう。ドレスデンやライプチヒが人口の変動や市場経済に翻弄されてきた様が描かれる。日本でも有名な住宅の減築と緑の創出は、縮小都市におけるひとつの空間のあり方を示しているかのようでもある。印象的なのはデッサウのスペースパイオニアである。廃墟を魅力的と捉える新しい感覚を持った若い世代がこれからのまちづくりを切り開く可能性を感じさせた。


   第4章は日本の地方都市である。少子高齢化、自治体の財政逼迫と行政コストの問題が迫る中で、福井はコンパクトシティ政策に舵を切った。長崎では斜面地からの撤退をせず、高齢者の生活を支える施策をとっている。釜石や飯塚では産学官連携などにより産業の裾野を広げようと努力している。一方で人口増加を諦めきれないジレンマも垣間見える。
  著者は言う。「サステイナブルであることは、状況に対して変わることなく断固一貫して継続することではなく、むしろ変化に柔軟、かつ多様に対応し得ることである」と。著者がしばしば「吃驚」と表現するほどに都市縮小の実態は様々であり、同時に過去の延長上にない斬新な発想の転換や知恵が行政にも市民にも求められているということではないか。新書として誰でも手軽に手に取り読み進めることができる本書は、その一助となるだろう。
(東京大学大学院助教・片山健介)

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