大西 隆・小林 光 編著 竹本 和彦 他 著

2010/3

 
『低炭素都市――これからのまちづくり』
学芸出版社(定価2,835円 2010.01)

 学会を代表する都市計画研究者と、現役環境省事務次官、審議官、東京都環境局理事といった第一線で活躍する実務経験者との希有なコラボレーション。そのことに、この図書が扱っているテーマ「低炭素都市づくり」の先端性と奥深さが現れている。そして、その先端的で奥深いテーマに対して、基礎から応用まで、体系だって分かりやすく説明を加えている点を高く評価したい。具体的には以下の通りである。
 本書では、まず1章において低炭素都市づくりの基本的方向について、例えば人口1人当たりの温室効果ガス排出量の都市間の比較といった基本的な情報をもとに論じている。そして、2章では、温室効果ガス削減に関する昨今の国際的状況ついて分かりやすい図表とともに説明を加えている。読者に低炭素型都市づくりの「基礎」を叩き込むというわけだ。
 次いで、業務、運輸、家庭の3つの立場にわけて現在行われている多様な温暖化学削減に向けた取り組みを整理している。低炭素都市づくりに必要な多くの手法や施策、制度が紹介されており、例えば、BEAMSやESCO事業など、昨今現場でよく耳にするキーワードについてもここで理解することができる。徐々に「実践的応用的」な知識を身につけることができる。その上で、都市政策・都市計画として実際に低炭素都市づくりに取り組む際に問題となる、都市間協力・連携や計画手法への組み込み方法(SEA等)について、内外の実験的な試みを紹介している。さらには、日本においてはじめて実現した東京都の「キャップアンドトレード制度」を担当者自身が、どのような議論のもとに導入され、どのように運用されようとしているのか? 詳述している。そこには、今後の他自治体での導入に際しても参考になる情報が数多く含まれているのである。


   本書の最後には、内外の様々な低炭素都市づくりの試みについて多数まとめられており、低炭素都市づくりの各地での実践に際して、参考事例集的にも利用できる。
  本書は、「東大まちづくり大学院のシリーズ」の第1冊目として出版されたものである。東大まちづくり大学院では、幅広い専門分野からなる「教員」と、30代から60代までの多彩な実務経験を持つ「学生」が、様々な素材を題材に議論・研究・提案をしている。本書もそのようなまちづくり大学院の活動の多様性の中から育まれたものである。冒頭で述べたような希有な著者のマッチングが実現したことに、そのことが表象されている。続くシリーズの刊行も大変楽しみである。
(東京大学大学院准教授・小泉秀樹)

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