日本政策投資銀行地域企画チーム 編著

2010/9

 
『実践!地域再生の経営戦略(改訂版)―全国36のケースに学ぶ“地域経営”』
きんざい(定価2,730円、2010.02)

 「地域再生」に成功した例は多くあるが、共通するKSF(キー・オブ・サクセス・ファクター) は何だろう。リーダーか、地元経済か、財源か、情報か。
 本書は、このKSFの分析を事例ごとに行い、「住民の参加促進」「官民バートナーシップ形成」
「地域人材の育成」「地域資源の有効活用」「外部人材・外部評価の活用」「地域経営戦略の展開」の“6つの解”に分けて、今後の“道標”を示した。執筆陣は、自治体の政策を支援したM日本政策投資銀行地域企画チームである。
 まず、興味深いのは今、全国で“地域の足の衰退”が問題となっているが、そこからの“復活”をテーマにした福井県の「えちぜん鉄道(株)」のケースである。私も公共交通が廃止された街を幾つか見たが、これは「地域のへそ」がなくなるようなもので、不便というだけでなく、地域社会の「広場」「にぎわい」「コミュニティ」なども一気に手放すことになる。
 本書の「えちぜん」では、前の経営母体であった京福電鉄が厳しい経営状態であった上に、2度の衝突事故を起こし、廃線となった。しかし、代替バスは、山間部では乗り心地が悪い上に、都心では渋滞を生み、人びとは豪雪時に移動もできないという事態に陥った。鉄道を失った地域はどこも同様の困難を抱えるが、解決は難しい。さて、本書の読みどころはここからである。鉄道はいかにして復活したのか。詳細は本書に譲るが、KSFは「官民パートナーシップ形成」と「再生のスキーム」にある。全国の他の地域にも汎用性がある“解”であるが、そのポイントがどこにあるのかは本書で読んでいただきたい。
 もうひとつ触れたいのは、京町家の再生例である。「外部人材」である外国人の研究者らが、空き家となっている京町家を宿泊先として提供、新しい旅のスタイルを構築したというものだ。

 

 現存する京町家は、耐震や耐火基準が十分でないものが多く、泊まりたい客がいても、旅館として利用するのは難しいのが現状だった。そんな中、“美しい日本を残したい”と考える東洋文化研究者のA・カー氏らが「賃貸借契約」を使い、京町家を「民家」として「賃貸」するという方法に着目し、宿泊を可能にした。“よそ者に冷たい”とされる京都で、“外国人”らのベンチャーが新しい魅力の創出に成功した過程を考察している。私も2軒を利用したことがあるが、外国人から見た東洋の美と京都の伝統文化という2つの価値観を享受できる不思議な空間であった。
  さて、2つの“解”については事例を述べたが、他の“解”は、例えば、新しい高齢者ケアのモデルを構築した佐賀県では、NPOを舞台にした「住民の参加促進」がKSFとなり、以前“何もない”とされた岩手県葛巻町は「バイオマスタウン」として有名になったが、その解は「地域経営戦略の展開」にあった。“青い鳥”のようで“青い鳥”でない理由を読み解いていただきたい。36の事例の中にはすでに有名なものもあるが、ここまでKSFが整理・考察された著書は例を見ず、今後の地域社会の展望を考える上で参考になる。

(朝日放送・戸田 香)

書影イメージ

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