横浜市・鈴木伸治 編著

2010/10

 
『創造性が都市を変える――クリエイティブシティ横浜からの発信』
学芸出版社(定価2,100円、2010.03)

 2009年9月、国内における創造都市の嚆矢である横浜市において、「横浜クリエイティブシティ国際会議2009」が開催された。国内外から約70人のスピーカーと延べ約2,000人の参加者が集い、「創造性が都市を変える―Creativitymoves the City」をテーマに、欧州、アジア等の様々な都市のスピーカーから取り組みの報告や課題が提示され、オーディエンスとともに、創造都市の次なる方向性と戦略について3日間にわたり議論が繰り広げられた。本書では、その成果とさらなる考察、そして創造都市の今後の展望が示されている。
 本書の編者である鈴木伸治氏(横浜市立大学国際総合科学部ヨコハマ起業戦略コース准教授)は、横浜市創造都市アドバイザーとして、「クリエイティブシティ横浜」における数々のプロジェクトにかかわり、本国際会議では企画委員会委員長を務める。
 序章で、鈴木氏は「運動論としての創造都市」という視点から、都市を動かすには、都市間、そしてNPOや市民レベルの交流を通した知識と経験の共有から、新たなイノベーションを実現する「創造性」を育み、創造的な取り組みが連鎖する構造を構築し、多様なレベルでの展開と実践が必要ではないかと提起する。
それを受けて、第1章では、創造都市研究の第一人者、ピーター・ホール氏が自身の行った本国際会議の基調講演「創造性が都市を変える」をさらに掘り下げた都市論を展開。
 第2章では、「創造都市を実現するための戦略」として、「文化・産業・都市空間への横断的アプローチ」について、横浜が取り組んできた文化芸術、まちづくり、産業分野を横断して行ってきた数々のプロジェクトを踏まえ、国内外の様々な都市の取り組みを対比しながら、文化政策、教育、シビックプライド、産業振興、コミュニティ再生、都市計画など多様な視点から取り組みの結果が吟味され、課題が指摘される。

 

 第3章では、リーダー格の創造都市の中から、都市規模、歴史、環境条件等が多様な12都市――国内では、新潟、金沢。アジアでは、台北、韓国の諸都市。ヨーロッパでは、ベルリン、フランクフルト、リヨン、ナント、アムステルダム、リバプール、ヘルシンキ。北米から、トロント――について、取り組みのプロセスや結果、そして残された課題が提示され、改めて創造都市の条件とされる「多様性」を実感するだろう。
 最後の第4章では、横浜市長から、横浜市のこれまでの文化芸術創造都市への取り組みが総括され、本国際会議で発信された横浜宣言に盛り込まれた今後の横浜市の方向性が示される。
 評者も本国際会議の参加者のひとりである。
分科会はどれも興味深く、体がひとつしかないのをもどかしく感じた。本書は、それを補ってくれるとともに、改めて、国内外の「創造都市」を俯瞰することによって、理論の深化に寄与する書であると思われる。

(大阪市立大学・上野信子)

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