本書は、日本で初めて「寄付」に関して、科学的に可視化させたという点で画期的である。
私たちは「日本には寄付文化がない」という根拠のない嘆きを時として発してきた。特に非営利セクターの周辺の人びとは基盤の弱さ、活動の展開力の弱さを「寄付文化」のせいにしてきた側面もある。確かに、本書が明らかにしているように、欧米とGDP比で比較すると明らかに寄付総額は少ない。しかし、この事実は比較の中で少ないということであり、寄付文化が「ない」ことではないということを、具体的な数値をもって明らかにしたことの意義は大きい。換言すれば、私たちの社会の歴史や文化に根ざした寄付の実態が明らかになることは、今後の市民社会にとっても意味が大きい。
この白書が日本の寄付市場を1兆円と弾き出したこと自体高く評価できるのだが、興味深いのは
個人寄付と法人寄付の割合である。法人寄付より個人寄付のほうが僅かではあるが多く、実に15歳以上の3分の1が寄付行動を行っているという事実は何を物語っているのであろうか。世間を騒がせた、タイガーマスク現象で「寄付」ということが社会的にクローズアップされたが、あのムーブメントが多くの人びとの共感を呼び起こしたのはなぜだったのか。地域社会で寄付というものに向
き合っているわれわれには大きなヒントとともに、一種の課題を突きつけられているともいえる。
本書が示しているように、寄付市場を拡大させ、寄付文化を革新させていくためには、税制や信託に基づいた寄付などの制度づくり等も重要だが、寄付を受け取る側の「革新」も同時にとても重要
だ。私も地域社会で寄付に携わる仕事をしているが、個人からの遺贈も含めた寄付ニーズは非常に
高い。しかしながら、受け皿となる寄付先の未成熟さがそれらの寄付ニーズを遮っている部分がある。この一種のミスマッチを是正して行く上でも、本書でも紹介されているように、地域の中に寄付
を仲介する機関や機能が多様な形で存在することが重要なのであろう。
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ただ、本書では寄付の「使われ方」に言及がなかったのが惜しい。女性シェルターの事例などで一端は紹介されているものの、寄付がどのように使われているかを明らかにすることも白書としては求められる。寄付先である非営利セクターが寄付をどのように位置づけ、活かしているかという点は、他の財源と寄付のもつ特性の違いを色濃く映し出しているに違いない。これを明らかにする責務は、白書という性格からいっても、筆者だけのものでなく、私も含めた寄付に携わる仕事をしているすべての人間に課せられた宿題として、今後の白書の中で明らかにしていかねばならない。
この書評を記している最中に東日本震災が起こってしまった。震災という非常時(非日常)ではあるが、多くの人がまだ寒さの残る街頭で寄付を呼びかけ、それに呼応し多くの人が足を止め、寄付に応じている。こういった光景や現象から、日常において私たちの社会がもつ潜在的な力を引き出し、つないでいくためにどうしていかねばならないか、ということを真剣に考えて行く上でも本書は多くの示唆を与えてくれる。 |