東日本大震災は私たちに「今から何をなすべきか」という問いを提起した。本書は、50人の執筆者が自らの専門や関心分野において、その“答え”とも言える見解を提示している。本書では、“答え”は、1.地域の再生、2.日本経済の課題、3.復興と日本社会、の3つに分けて紹介されている。論争的なテーマも含まれ、何人かが異なる見解を主張しているところもあり、読者に多角的に考えさせる場を提供している。また、多くの提言が震災後わずか1カ月後に執筆されていて、これらを、伊藤滋、奥野正寛、大西隆、花崎正晴がまとめ、3カ月後に出版した。まずはそのスピード感に敬意を表したい。
本書で、私が最も興味深く感じたのは、特に、伊藤、大西らが、防災をめぐるこれまでの考え方からの転換を提言していたことである。大西は、防波堤・防潮堤という人力によるハード整備では大災害は防げないことを今回の教訓とし、高台移住を提唱する。そして、大災害に対しては、「防災」ではなく、「減災」が人間のできることであり、まちづくり全体で安全を確保するべきとする。大西は、この発想の転換ができていれば、破壊された釜石市の防波堤の建設費用約1,200億円を別の対策に用いることも可能であったと考える。似た事例として、岩手県宮古市田老地区の「万里の長城」と呼ばれていた防潮堤を、地域の住民が過信し、多くが逃げ遅れた悲劇とも共通点を持つ。伊藤も「千年に一度」とされる津波では、命を完全に守れるハード対策はできないとし、「1人の生命でも守る」ではなく、「できる限り多くの命を助ける」という発想が必要と説く。そのため、土地利用、警戒システムの改善、社会的弱者の予防的保護等のソフト領域を重視するべきとする。
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私は、河川行政について調べたことがあるが、治水対策は、「百年に一度」などの大雨を基準にこれまで多くのダムが整備されてきている。しかし、ここでもハード整備は万能ではなく、気象条件も変化し、財政難の中、発想転換が必要であることがわかった。震災を機に、日本社会全体が災害とどう向き合うか、考え直す必要があるのであろうと痛感した。
また、本書は、サブタイトルが「持続可能な経済社会の構築」とあるように、日本経済の今後についても多くのページが割かれている。例えば、マクロ経済については、「復興プロセスへの国の直接的関与は最小限にし、民間活力と市場メカニズムを活用すべき」、ミクロの金融については、「PFI、ファンド、マイクロファイナンスなどのチャネルが必要」など持続可能社会に向けての具体的な提言が盛り込まれている。復興資金の調達方法や電力不足への対応についても興味深い考察が多かったが、とりわけ「資本市場を通じた自然災害リスクの移転の方策」などこれまであまり着目されていなかった課題も取り上げられていて、考えさせられた。これらは読者が日本の明日を考える際の一助となるに違いない。 |