福島第一原発の事故によって、日本社会は原子力発電システムを十分に制御できていないことが白日の下にさらされ、原子力への依存を深めようとしていた日本のエネルギー政策は、根本的な転換を余儀なくされたはずだ。しかし総理交代以後、新しいエネルギー政策の方向性を検討する政府の姿勢がトーンダウンしていると感じているのは、著者だけではあるまい。政府は夏までに新しいエネルギー戦略を発表するとしているが、国民にその機が熟しているとは言えない。エネルギー政策を転換しなければならないという危機感は、風化しつつあるとさえ感じられる。
本書は、東日本大震災復興構想会議専門委員だった植田氏と、菅内閣で内閣審議官を務めた梶山氏が、「リアリティのあるエネルギー戦略のシナリオを検討してほしい」という菅総理(当時)の要請に応えるために組織した自主的研究会による、緊急レポートである。本書が上梓されたのは、政府だけでなく国民一人ひとりがエネルギー問題に関してビジョンを持ち得るよう、そしてお互いが討議できるようにという思いからであろう。本書の主題は、シナリオを構成する選択肢をつくるために必要な情報的基盤を提供しようとするものである。
著者らのビジョンははっきりしている。熱利用を含む再生可能エネルギーの拡大とエネルギー消費削減を進めるべきであるということだ。その実現可能性と政策手法を、ドイツを中心に欧州の例を参照しながら検討している。カギは小規模分散型エネルギーシステムを構築することと、市場を活用してシステムの安定性と効率性を高めることである。詳細については異論もあるかもしれない。ぜひ多くの人が本書を手に取って読み、討議の基礎材料とすることが、著者らの願いであろう。
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本書は、エネルギー政策の転換の先に日本社会のガバナンスの転換を見越している。特に留意すべきは、「小規模分散型エネルギーシステムは地域の自立を促し、中央集権から地方分権への移行を意味する」(P.3)ということの含意である。地域の自立を促すエネルギーシステムとは、何か。しかし、本書はあくまでもマクロデータに基づく、国レベルでのエネルギー戦略についての議論である。その重要性は言うまでもないものの、本来ならば、自立した地域エネルギーシステムの構想が、国のエネルギー戦略に先立つべきではないか。地域エネルギーシステムを構想するしくみと主体の欠如は、いまだ日本社会の重要な部分が中央集権的であることの証左でもある。自立したそれぞれの地域の姿、さらに言えば人びとの新しい生活様式は、個人と地域コミュニティで創り出さなければならない。地域で選択肢を作るための知識的基盤こそが求められている。
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