東日本大震災の復興は、津波で被災した街をそのまま被災前の姿に戻してよいのかどうかが問われている。壊れた街をその場所で元通りにすることが求められたこれまでの震災とは異なる事情がここにある。被災前の街に対して居住を認める区域(居住地)と認めない区域(非居住地)とに分ける都市計画の基本となる考え方の整理が必要だ。この遅れが被災地復興の遅延が指摘されるひとつの要因ではないだろうか。各被災自治体ではようやく復興計画が出そろった感があるが実現にはより具体性が求められる。本書は、都市計画の第一人者である著者が、都市計画をベースとして復興の多様な視点を意識しながら街づくりの方向性を具体的に示唆した貴重な一冊である。
第1章では被災状況を定量的に整理し、被害の大きさを示しつつ政治の混迷による復興の歩みの遅さを指摘している。第2章は本書の核となっており、著者の都市計画をベースとしたきめ細やかな指摘が素晴らしい。仮設住宅に関しては、諸外国の事例との比較が興味深く、日本の仮設住宅の貧弱さを浮き彫りにしている。居住地と非居住地を分けた上で、街づくりの原則としてエスケープ・ヒル、宅地と農地の交換、高齢者・災害弱者対応などソフトの視点に加え、防潮堤、遊水地、植林、道路、鉄道などの都市基盤の整備理念を示唆している。さらに、被災地を地勢や定量データなどから5つの区域に分け、将来構想図を基本方針から積み上げている。都市計画の専門家ならではの手法である。この将来構想図に基づいて、主な自治体ごとに被害と課題に触れているが、あま
り深く言及されていないのは著者の遠慮だろう。
域の実情は、各論にいけばいくほど一筋縄ではいかないことが多々あろうが、本書で紹介されている計画案は、街の復興を議論する上で貴重なたたき台となり得る。第2章の最後には、2004年にスマトラ沖地震で津波被害を受け、著者が関わったバンダ・アチェ市の復興計画と実践を紹介し、都市計画をベースとした復興計画の重要性を示唆している。
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第3章で原発に触れ、第4章では、震災を機にこれまでの自由による無秩序への歯止めの必要性、さらに、将来人口、防災から減災、国民意識、ライフスタイルなど緩やかではあるが幅広い視点を震災と関連させて多くのことを読者に語りかけ、この震災を日本の課題として提起しようとする著者の狙いが伺える。復興にはスピード感も求められ、人材や財源など限りある資源を効率良く割り当てることも必要となる。都市計画をベースとした復興提言となっている本書は、復興の効率性にも大きな役割を果たすだろう。また、都市計画の専門家でない読者を意識してか専門用語はほとんど使われておらず読みやすい構成になっている。復興に関わるすべての人に、とりわけ被災された住民の方々に手にとって読んでいただけると、復興に対する都市計画の重要性と今後のまちづくりの具体的な方向性について理解を深めることができる一冊である。
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