高橋 元 監修、光多長温 編

2012/8

 
『超高齢社会』
中央経済社(定価2,800円+税、2012.6)

 本書は財団法人都市化研究公室超高齢社会問題研究会(会長高橋元)の成果をまとめたものである。執筆者は18人からなっている。超高齢社会というのは、人口変動の段階を示す概念であり、総人口に占める65歳以上人口の割合が21%を超えた社会をいう(p7。しかしp198には「私見」と断りながらWHOの提唱を紹介し、超高齢社会を25%以上とする記述もある)。日本は超高齢社会の状況になるという認識の下で、高齢者施策について論じている。
  序章と第T部では、マクロな視点から現状を分析している。ただ、年金問題は大きな課題なので、この本では扱わないとしている(p12-13)。「超高齢社会の訪れと国家的課題」として、国のGDPは増加せず、国内需要は先細り、雇用減少、働きざかりの海外進出、資産格差の増大などが想定され、日本国民としてのアイデンティティーを確保するためには、社会保障も実物給付型にしながら、海外で活躍する日本人からの「ふるさと納税」や、相続税を切り替えた「富裕税」や「遺産税」を考えるべきだという提言がなされていることが注目される。また将来は「地域的凝集を伴う人口減少」、「高齢人口の増加と生産年齢人口の減少」とみて、東京圏の医療需要増加と過疎地域のいっそうの過疎化、そして災害による高齢者被害が大きな課題になるとしている。
  第U部では、世田谷区の居宅介護サービスシステム、和光市の介護予防前置主義、尾道市医師会の地域医療連携、有料老人ホーム、民間居宅介護サービス、サービスつき高齢者向け住宅、ご当地体操による健康増進など、各地、各事業所の事例が紹介されている。これらは2012年から方向づけられた高齢者に対する「地域包括ケアシステム」という政策を考える場合に大いに参考になるだろう。

 

  V部「超高齢社会の方向」では、きわめて個人主義的な「フランスの高齢者をめぐる制度」の紹介、患者のニーズに合わせた「高齢者医療」、介護予防をめざす「老人保健」、柏市豊四季台で実証実験している「高齢者が住みやすいまちづくり」、公共投資による自然増収で社会保険会計を均衡させることは可能だとする「公共投資の効果」などが論じられている。そして、総括的に、多様化、地域、官民協働をキーワードとする「超高齢社会にむけた社会設計」が論じられている。
  私のように過疎地域を先進高齢社会として位置づけて研究してきた者としては、いよいよ国全体の超高齢社会対策が過疎地域振興策を原型として実装する時代になったのかと感慨ひとしおである。しかし、あえて言うならば、現状を「超高齢社会」として捉えることでよいのであろうか。むしろ「生産年齢人口減」という認識を強く持って、ロストゼネレーション対策など「今は若いが30年後は高齢者になる」人口に焦点を当てた政策こそが重要なのではないかという率直な感想を持った。

(熊本学園大学教授・小川全夫)

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