文化活動と行政の関わりについては、その是非を含め様々な意見がある。財団法人文楽協会への補助金凍結を巡り、同協会と大阪市の間で、補助金の使われ方や文楽振興の方法が議論になったこともあり、最近は、文化事業のマネージメントについて、マスコミ等の話題になることも多い。
得てして批判的な目が向けられがちな公の施設であるが、本書は、兵庫県西宮市にある「兵庫県立芸術文化センター(以下「芸文センター」)」という、阪神・淡路大震災からの復興のシンボルであり、チケットを売り切る劇場としてブランディングにも成功した事例を取り上げている。観客や、地域コミュニティ、納税者までを視野に入れて、行政支援の仕組み、制作プロセス、マーケティングなどの観点から、マネージメントを多重的に読み解き、公立劇場が地域に果しうる役割と、今後の総合的な戦略を示している。
これまで公立劇場の多くは、経済性・効率性という経営意識が十分とは言えず、その検証ができてこなかった、というのが実態ではないだろうか。特に市場性が低い地方都市では、入場料収入だけでは事業費用を賄うことは極めて難しい。だからこそ公立劇場は、経済性・効率性とともに、その理念・目的・目標に即した事業や運営が行なわれるようにすることが最も重要だと指摘している。
第3章では、芸文センターが、「アートの世界も市場経済の中で成立する」というコンセプトで取り組むマーケティング戦略を、4P――Product<優れたパフォーマンスの立案>、Price<科学的な分析による価格設定>、Place<戦略的広報計画>、Promotion<チケット販売などにおける営業戦略>――の視点で分析している。 |
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その中で、兵庫県という民業が成立するだけの市場がない地域で自主事業中心の劇場展開をするには、入場料収入で収支を合わせる、つまり「入場券を売り切る」マーケティングの必要性を指摘している。この戦略の応用範囲は、他の公的施設の運営に留まらず、民間企業の営業活動やマーケティングにも十分応用できるもので、関係者には是非推薦したい一冊である。
また第6章では、芸文センターの観客のプロフィールや観賞行動の分析、更には仮想評価法を用いた社会的便益の規模の推定結果を踏まえて、今後の劇場支援のあり方に関する政策的インプリケーションを示している。先行研究でも論点となることが少なかった切り口であり、公の施設のマネージメントのあり方に一石を投じた作と言える。 |