副題にあるように、本著は間違いなく現時点の日本版コレクティブハウジング(以下、CH)大全集である。
そもそもCHとは何か。その明確な定義はプロローグを読んでも出てこない。すでにCHが多くの人びとに認識されており、そうした層を読者対象としているからなのか。冒頭によぎった懸念は第1章の居住者インタビューを読んで払拭された。相変わらず定義など出てこないが、CHを知らない人でも、居住者の語りを通して、実際に住まわれている姿、そのエッセンスが立体的に想像できるようになっている。CHの良いところだけでなく、不満や不安についてもきちんと記載されており、信頼感を持って読み進めていくことができるだろう。わかりやすく空間構成を紹介するイラスト、自然な笑顔の居住者たち、そして何より、素朴でありながらも暖かさが伝わってくる魅力的な料理の数々が図版として添えられており、これらを眺めているだけでも、CHへの親しみが湧いてくる。
CHのような集住に対しては、どこか「こってり」な住民交流をイメージする方も少なくないと思う。しかしここで語られているのは、どこかクールでありながら、優しくバランス良くゆっくりと人との関係を築きあげていく住民交流である。いわば「ふんわり」なのである。それは現代都市の若者世代が嗜好する人間関係や社会環境のイメージと近いように感じられて興味深い。
第2章はCH居住運営の仕組みと実態に触れ、第3章では、主題「第3の住まい」の意味の掘り下げている。そして第4章ではCH開発事業の仕組みがしっかりと解説されている。これらの中にも「ふんわり」を創出する工夫が満載である。 |
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本著の最大の特色とも言えるのが第5章。住居学・建築学の専門家で構成されている執筆陣の代表である小谷部育子が、CHの評価・課題を浮き彫りにするべく、関連他分野の専門家と対談を行っている。「共同調理」が本当に重要なのか、重度の介護が必要になってもCHに住めるのか、CHで最期を迎えられるのか。CHが本当に「第3の住まい」となる強度、可能性を秘めているのかを探る社会学者・上野千鶴子の鋭い問いかけは、刺激的かつ高度に示唆的である。
最後に、私事で恐縮だが、目下、2歳の子どもを私や妻の実家から遠く離れた地方都市で育てている。本著に紹介されたCHを見るにつけ、こんな「多世代共住」で子育てしたいなぁ、と憧れのため息が漏れてしまう。 |