大西 潤 編著

2012/12

 
『〈政府〉の役割を経済学から問う』
法律文化社(定価2,415円+税、2012.7)

 本書は、新潟大学公開講座「これから『政府』の話をしよう」の講義内容を書籍の形でまとめたものである。専門を異にする5名の著者が、各自の専門に共通に関わる「政府」について、それぞれの専門分野の観点から関連するトピックを解説している。扱われる内容は多岐に亘るが、初学者向けに丁寧に書かれており、このテーマの入門書とも言えるものである。各章ごとの概略は以下のようになっている。
 第1章では、経済学の観点から「市場と政府」について説明されている。そもそもなぜ政府が必要なのか、そして政府がこれまでどのようにとらえられてきたのかが簡潔にまとめられており、特に、これまで政府の機能としてあまり重視されていなかった世代間の調整についても触れられている。続く第2章では、政府は破綻するのかと題し、政府活動の状態を測る指標の一つである「プライマリーバランス」が主に解説されている。それをふまえ、財政危機に陥っているヨーロッパ経済とも比較しながら、なぜ日本の財政が大きな問題とならないのかが明らかにされる。第3章は、政府の経済活動の一つである「公共事業」を解説する。無駄な公共事業が話題になる昨今、このトピックに関しては様々な議論がなされているが、ここでは、公共事業の現状に加え、その善し悪しをどのように測るかが説明されており、また、著者自身の分析や経験なども交えた興味深い考察が含まれている。
  第4章と第5章の内容は、厳密に経済学という枠組みに収められるものではないが、後に述べる意味でその位置づけは重要である。まず第4章では「市民」に焦点が当てられ、その語法にも詳細な検討を加えながら,市民と政府の関係を,多くの事例を用いて明らかにしている。

 

 最後の第5章では「政権交代」がテーマとなっており、民主主義における各種選挙制度の性質にも触れつつ,1990年代以降の日本の政治改革の功罪と,選挙制度改革が我が国の政治に与えた影響を考察している。
 このように本書は、政府の役割を経済学から問うと題されてはいるものの、その内容は経済学にとどまらず、社会学的あるいは政治学的な内容にも踏み込んで解説している。これは、現代において政府を考察するうえでは、それだけ多角的な視点が求められているということの表れとも言えるであろう。ただ、各章ごとの内容があまり相互に活かされていないように感じられた。書籍の形にする際に総括の章を設け、政府の現状を様々な角度から考察したものを提示してあったなら、読者が自身で政府を考察する際の手掛かりを与えることができてなおよかったであろう。
  少子高齢化やグローバル化の進展などによって政府の在り方が問われている現在にあって、政治学や経済学の枠組みにとらわれることなく、「政府」というものが何なのか、あるいはどうなっているのかを幅広い視点から理解したい学生や社会人に読んでもらいたい一冊である。

(新島学園短期大学講師・永田長生)

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