エリノア・オストロムが2009年のノーベル経済学賞を受賞したこともあってコモンズという用語は近年相当に知られるようになってきている。それは通常自然資源(林野、河川、漁場など)を対象に、資源に隣接した共同体のメンバーが、それらの資源をかけがえのないものと利用し、良好な維持管理をすることで持続可能な資源管理の仕組みとして捉えられる。一方でハーディンが描き出した「コモンズの悲劇」のように共有や共同管理にはフリーライダー発生の余地を残し不可避的に資源崩壊を来すという負のイメージも付きまとう。
著者の高村氏は気鋭の法社会学者である。本書においては都市を対象に住民にとってかけがえのないコモンズを見出し、広範な分析と都市再生にとっても切実となる有効な提言を行っている。
伝統的入会林野における「コモンズの悲劇」は、牧草、薪、山菜など単位資源の過剰利用やアウトサイダーによる盗伐といった問題から発生したのに対し、都市においては公園、マンションなどで創り出されるコミュニティ、景観などがコモンズとなるが、そこでの中心課題は、システムとしてのコモンズ資源を良好な管理状態に保つための労働供給問題や共同空間を積極的に活用して地域の運営管理にあたる担い手たちの供給問題にあり、次元の異なる社会的ジレンマを抱えることになる。本書では、都市の児童公園、マンションに生まれるコミュニティ、景観規制の執行・受容過程のダイナミズムが具体的に取り上げられる。
コモンズの仕組みには必ず管理面でのルールがあり一定の自律度をもつが、それを取り巻く外部社会が現存する。両者の関係が安定であるためには、対象となる資源の所有と利用を明確にする@権利義務関係の法、コモンズ内のルールを定めたA組織内の法、その実効を支援するB政策法という3つの法概念が必要であり、そこに地域共同管理を実現するための法の役割があることが主張される。
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オストロムは、コモンズの資源としての特性(利用者の排除が難しく、利用での混雑状態を起こしやすい)と管理のあり方を峻別したうえで、コモンズの管理が国家や市場といった上位・専門そして普遍的処理機構によってではなく、地域コミュニティの共同管理によって有効となる場合が多いことを実証的に示した。著者はさらに地域共同管理が管理コストの低減に結びつくだけでなく、資源の利用者が管理に関わることで、資源のよりよい利用ルールが創造されるという点を重視する。そしてコモンズの良好なガバナンスの実現には住民自治組織の自己組織的な集団意思決定を中心に置きつつも、都市自治体が政策法を通じて支援していくことが必要であるという主張を行い、法学者ならではの現実感覚を示している。
本書はそれだけではない、ここ10年以上に亘って大いに進められている日本型コモンズ研究に対しても、政策的実効を目指すためには所有類型論を踏まえたものにするべきことを建設的な批判として行っている。これは都市のコモンズを問題にするときには特に必要なことになるであろう。 |