岩佐明彦 著

2013/2

 
『仮設のトリセツ――もし、仮設住宅で暮らすことになったら』
主婦の友社(定価1300円+税、2012.3)

 災害によって被災者が失うのは、災害前の平穏な暮らし、仕事、住み慣れたまちにおける人々とのつながり、そして住まいである。命は取り戻せないのだが、これらの失われたものを回復していくためには、人間の生活基盤となる住まいの再建が欠かせない。本書が取り上げる応急仮設住宅とは、災害救助法に基づき、災害で家を失った被災者に提供される期間限定型のプレハブ住宅である。
応急仮設住宅には住宅としての数々の欠陥があるといわれている。それらは、暑さ・寒さ、防音性などであり、また、東北の大きな戸建住宅と比べると標準面積9坪はかなりの狭さであろう。本書はこれらの住宅の問題点に対して、居住者たちが行っているカスタマイズや住みこなしなどの知恵を紹介している。トリセツを読むと、被災者たちが主体的に住まいを改善しようとする住む力が生き生きと伝わってくる。確かに軽量鉄骨プレハブ工法でつくる長屋型の仮設住宅には、物理的な居住性能に関する多くの問題があるだろう。しかし、完璧な住まいを被災者にあてがうことは、疑う余地なく正しいのであろうか。被災者たちが自らの居住環境を改善しようという意識を呼び覚まし、行動を起こすような「余白」を残すことも大切なのではないかと考えさせられる。
東日本大震災の仮設住宅団地の勉強会で講師を務めた、阪神大震災復興市民まちづくり支援ネットワーク世話人の小林郁雄氏は、「仮設といえども、まちである」という発言をされ、これに多くの仮設居住者たちがハッとさせられたという話を住民の方から聞いた。

 

2年間限定という仮の住宅であるのだが、被災者個人が暮らす住宅本体の改善を行うことに加えて、仮のまちである仮設住民たちのつながりを作りながら、共にパブリックな空間(例えば、屋外の外部空間)を少しでも心地よく、快適で、豊かな環境に作り上げていくプロセスは、長期にわたる復興までの大事なワンステップであると思う。本書は仮設住宅をいかにして住みやすくするかというノウハウだけではなく、住み手が自らの住まいに手を加えていくという行為がいかに大切かを教えてくれる。
  住宅復興のノウハウとして今後必要なのは、仮設住宅から恒久住宅の再建までの過程を連続的に行いうる増築移行型仮設住宅の知恵であろう。応急仮設住宅は一戸あたり約400万円の費用がかかること、住み慣れたまちからの移転が必要であること、本設の住宅再建との間の連続性が保てないことなど多くの限界がある。東日本大震災の被災地では、市町村の独自の取り組みによって木造仮設住宅の供給やそれを生かした増築移行型仮設住宅を目指している事例もある。このような新たな住宅復興モデルとそのノウハウを収録した指南書をまとめることが、今後発生することが予想されている南海トラフ地震や首都直下地震などに対する備えとして極めて重要になるであろう。

(神戸大学大学院工学研究科准教授・
近藤民代)

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