矢作弘・明石芳彦 編著

2013/2

 
『アメリカのコミュニティ開発――都市再生ファイナンスの新局面』
ミネルヴァ書房(定価3500円+税、2012.10)

 アメリカ社会が直面する「都市の危機」。インナーシティ問題を超えて、郊外にまで貧困地域が拡大している。ここ十数年、民主党と共和党の間で政権交代を繰り返すことにより、都市政策もケインズ主義から新自由主義に大きく舵を切った。それにより、都市政策における金融支援も補助金を活用した直接支援から、市場活用型に転換したのであった。
  本書で取り上げる「アメリカのコミュニティファイナンス」は、そうした転換期に生まれてきた都市再生の手法のひとつである。1990年代半ば、クリントン政権時代に、コミュニティ開発金融機関(Community Development Financial Institution : CDFI)を支援するCDFIファンドが設立された。コミュニティにおいて社会的、経済的正義を実現させることが、その使命である。資金・サービスの流れは、連邦政府・州政府・地方政府→CDFIとしての中間支援組織等→NPO、社会的企業→低所得者等の当事者となる。
  CDFI の代表事例で興味深いのは、「ケンタッキー・ハイランド投資会社」である。1968年に「貧困との闘い」を目的に設立、アパラチア山脈北部のケンタッキー州南部に位置する。高い失業率と貧困率、低所得者層が多い地域を対象に、ベンチャーキャピタル戦略を志向していく。アントレプレナーを育成し、資金を投じて、地域の課題解決に結びつけていった。劇場、コミュニティセンター、職業訓練学校等を新設、全コミュニティに水道と下水道処理施設を設置、200以上の農家に貸付したり、救急救援サービスを改良したりするなどの実績をあげてきた。その結果、約3600人の新規雇用が生まれ、貧困と失業を解決していったことが全米で話題を呼んだ。

 

  興味深いのは、CDFI にとどまらず、本書ではコミュニティファイナンスを「都市・コミュニティの再生に関与する資金」と広く解釈していることである。地域に飛び出し中小企業に融資するようになったクレジットユニオン、商店街活性化のために地区内の不動産所有者から擬似不動産税を集めるビジネス改善地区制度(Business Improvement Districts : BID)まで含んでいる。さらに、コミュニティ・アートの支援策や、食料砂漠(food deserts)問題にも深く切り込む。
  非営利組織などの経済主体が行政と連携、あるいは行政機能を代替していくには、活動資金の調達が最も大きな課題となろう。アメリカでの先進的な取り組みから、それを担うのは地域コミュニティの人びとの自発的な行為にほかならないことを改めて教えてくれる。
  コミュニティファイナンスは、日本では未発達である。いまだ補助金か、融資か、の二本立てが主流であるが、東日本大震災の後、復興支援を目的としたコミュニティファンドがいくつか登場していることが注目されよう。国内でもコミュニティファイナンスを普及させ、コミュニティレベルで社会経済を自立させていく必要がある。その点、アメリカの経験から学ぶことは多く、丁寧な調査に基づく本書は大きなヒントを与えてくれる。

(大阪市立大学大学院准教授・松永桂子)

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