大泉英次 著 和歌山大学経済学部研究叢書23

2013/9

 
『不安定と格差の住宅市場論
――住宅市場のガバナンスのために』
白桃書房(定価3,360円、2013.3)

 家並みが変化してきている。あれほど多かった木造のアパートは、あまり見かけなくなった。かわりに増えてきたのは、プレハブのハイツやワンルームマンション。通学路にあった公団住宅は、いつしか瀟洒な共同住宅にかわっている。住宅の変化は、ライフスタイルやコミュニケーションにまで影響を及ぼす。望んでそれぞれの住宅を選ぶ人がいる一方で、懐事情に左右されながら、市場に弾かれ、やむなく不本意な住宅に住まう人も多いのだろう。本書を読みながら、あらためて、そんなことに気づかされる。
 著者の視点は明快だ。人口減少や高齢化、経済不況や雇用不安を背景に、住宅市場は変化していて、住宅の需要は減少している。けれど、その需要の中では格差が広がっている。需要者の所得と支払い能力の格差。都市の住宅市場の成長と地方の住宅市場の衰退に見られる格差。例えば、住宅ローン破綻や借家人の追い出し、ホームレスの問題などがあげられる。住宅市場の不安定や格差はなぜ起きるのか。住宅問題の解決にはどういう政策が相応しいのか。
 もとより、住宅政策や住宅市場については、海外の事例もあわせ、多くの議論が重ねられてきた。本書は、これまで積み上げられた多くの議論を手がかりに、現代の住宅問題として「住宅市場の不安定と格差」の理論と歴史、さらには政策について論じている。これまでの議論が今日の問題に置き換えられることで、多くのことに気づかされる。イギリス、アメリカ、ドイツと日本の比較がされることで、問題の構造がクリアに見えてくる。住宅政策と住宅市場という、場合によっては相反するとも思えるふたつの論点が、何かのパーツがうまく揃ったときのように頭の中で組み合わされ、次第に腑に落ちてくる感じが面白い。

 

 住宅政策と住宅市場をうまく融合させ、居住の安定や自由を実現することは困難な課題だ。著者が、「チャレンジングな理論的政策的課題」と述べていることも頷ける。著者はこの大きな課題について、「住宅市場のガバナンス」として最後にまとめている。この場で詳述しないが、長年の研究の蓄積に基づき執筆された本書は、広く社会へ向けて書き上げられたと推察する。専門的な知識がところどころで必要ではあるが、全体を通して、わかりやすくまとめられており、多くの方に読んでいただきたいと思う。
 人口減少に加え、今後は世帯数の減少がはじまる。住宅ストックは、さらに余剰を増やすのだろう。著者が提起しているように災害リスクへの対処も求められる。新しい「住宅市場のガバナンス」により、この先、どんな家並みが見られるかは、我々の肩にかかっている。

(大阪市立大学大学院・久保園洋一)

書影イメージ

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