間宮陽介・廣川祐司 編

2013/10

 
『コモンズと公共空間
――都市と農漁村の再生にむけて』
昭和堂(定価4,200円、2013.3)

 今年の6月には国際コモンズ学会が富士吉田市で開催されるなど、今日コモンズへの関心が高まっている。本書は経済学と空間論の立場からコモンズ論に関わってきた間宮氏と新進気鋭の廣川氏が編著者となり、法学者の鈴木龍也氏と高村学人氏、都市論の下村智典氏が加わってコモンズを論じたものである。成員やアクセスを限定しながらも自律度が高く共益を維持してきたコモンズというものと開かれた公共性とは、どのような関係をもつのかといった問いや、農漁村再生や都市のコモンズの捉え方など今日的課題に深く切り込んだ内容となっている。
 鈴木氏は第2章で、入会山であることの多い里山は、過去の生業的利用が少なくなっても地域社会の環境保全の場であることが今日注目されているが、その開発や管理をめぐって行政、入会権者、地域住民の間で係争がみられることも多く、事例を検討することから、地域における公共性のあり方が問われていることを明らかにする。
 廣川氏は第3章で、静岡県伊東市池区の入会地保全のケースを採り上げ、入会権者と資源の関係、資源活用のために設立された株式会社組織の意義、観光という市場経済との関係を詳しく分析する。注目点は、池区民の積極的な法制度研究や環境変化の認識、それを踏まえた具体的行動であり、そこに廣川氏は社会的教育のプロセスを発見し、よきコモンズ形成の大きな条件を見出す。また第4章では、東日本大震災後地域復興を理由に持ち出された漁業権開放の動きを憂慮し、沿岸漁業資源の保全とも親和的な現在の制度の正しい理解とそれに立脚しながらも、状況の変化に適応できる制度改革の必要性を論じている。
 下村氏は第5章で、有名な長浜市黒壁の都市再生をテーマとするが、単なる成功物語を語るのではなく、観光によって地域活性化を図った場合の罠、居住者にとっての都市の持続可能性の問題を提起している。

 

 高村氏はこれまでにも、コモンズの内法と国家の政策法との補完的リンクを主張してきているが、第6章では、都市マンションの開発・管理におけるガバナンスや中古流通市場の現状分析に基づき、コモンズと市場の相補性改善や適正な法規制によって新たなコモンズ(マンションの質の向上という居住者にとっての共益効果、周囲への公益効果、さらに民設公園の設置など)の創造に繋がるという論点が示される。
 間宮氏は終章の第7章で、ロンドン市内にある多くのスクエアに注目し、貴族の私有地が一般宅地に開発される過程で、私的、共的、公的の各空間が共存、包含、遷移しながら全体としてオープンスペースが充実してくる歴史を確認する。そして住まい生きるという空間の保全に関心の強い関係者の多いスクエアほど、そこにコモンズとしての性格を帯びさせるという結論を得ている。
 従来型コモンズは環境や地域特性保全のための防塁であることが多かったが、これからのコモンズは、市場化の進むなかにあってこそ必要になるとの認識のもとに、都市をはじめ地域の現場で育まれるべきコモンズの新たな姿を模索しているのが本書でもあることを強調したい。

(慶應学術事業会代表・茂木愛一郎)

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