丸田頼一・島田正文 編著

2013/12

 
『ランドスケープ計画・設計論』
技報堂出版(定価4,000円、2012.8)

 最近、ランドスケープの領域に新たな役割が期待されている。その一つが、欧州ランドスケープ条約(2000年)の制定である。また、東北の震災を契機に、地域のレジリエンスが課題となり、国土強靭化基本法が検討されている。前者は、ランドスケープを、「自然または人間活動による作用、およびそれらの相互作用の結果としてかたちづくられ、人々に認識される地域、空間」と定義し、フィジカルな側面からのみならず地域ごとの人間の生活や暮らしに、より密着した視点を重視している。後者は、広域レベルの自然共生型の土地利用の観点である。ランドスケープの新たな地平を拓く時代が来たと言える。
 本書は、20の章と事例から構成され、産学官の第一線で活躍している研究者、実務者等によって著されている。内容は、作業のプロセスや手続き・手順、調査・解析・評価、構想や計画・設計の立案方法、植栽、素材、自然環境や住宅地の計画・設計、防犯・安全、ユニバーサルデザイン、防災、市民参画、歴史・文化的環境の保全、都市・自然再生、農山漁村の活性化など多岐にわたる。従来のランドスケープの計画・設計の領域を、さらに拡大させるとともに、その視野を広げ深化させた内容となっている。編者の丸田頼一氏は、即戦力に的を当てた技術教育と総括的な基礎教育の重要性を主張し、その考えのもと、基礎から応用、地区から都市、広域圏レベルの空間スケールに対応したランドスケープの計画・設計項目を網羅している。
 特に、生物多様性等の環境系の新たな課題の出現、景観緑三法、都市の再生、歴史まちづくり法等の関連法の整備充実、市民参画、事業評価、農山村の活性化といった事項に対応して言及している。いずれも今日の重要な政策課題であり、こうしたテーマに切り込んでいることも特徴である。さらに事例からは、最近のランドスケープの事情がよくわかる。

 

 前述のように、ランドスケープは我が国の国土政策においても大きな役割が期待されている。しかしながら、近年、学問や技術領域は、細分化が進んでいる。特にランドスケープは、総合性が求められる分野でもあることから、計画系、設計系に関わらず、まずは、基本的な分野をしっかりと修得することが必要である。その意味で本書は、大学でのテキストとして、最良の書である。さらにランドスケープの技術者、研究者、行政関係者等のみならず、建築、都市計画、土木等関連分野や行政関係者等、およびNPO関係者など幅広く読んでいただきたい。もちろん、近年の我が国のランドスケープの最先端を理解する上でも大いに参考になる。
 ところで、ランドスケープは、人間との相互の関係性において成立する分野であることは自明の理である。したがって、さらに、ランドスケープ(アーキテクト)の役割を高めていくためには、地域固有の生活や暮らし方(=「文化」)、あるいは、それをかたちにする戦略・方針(=「政策」)へのアプローチも今後の課題である。これらが複合・融合したときにはじめて真の「美しい国づくり」が実現できるはずである。

(静岡文化芸術大学教授・阿蘇裕矢)

書影イメージ

記事内容、写真等の無断転載・無断利用は、固くお断りいたします。
Copyright (c) Webmaster of Japan Center for Area Development Research. All rights reserved.

2013年12号 目次へ戻る