3.11後、災害復興においても一般社会においても「リジリエンス」(復元、回復)がキーワードとなっている。国が使っている「国土強靭化」という言葉もそれと絡んでいるのかもしれない。しかし、リジリエンスはハードな「強靭」だけではなく、「耐性」「弾性」をもつ地域住民の力、地域社会の中に埋め込まれたかけがえのない社会資源の意味もある。そのことを、世界各地の地震・津波などの自然災害と戦争・テロなどの人災からの回復の歴史的経験として括りだす注目すべき本が出た。
本書は、9.11後にMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者を中心に、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ等アメリカ都市からメキシコシティ、ベルリン、ゲルニカ等世界各地の都市復興の事例から都市のリジリエンスについて検討している。冒頭、哲学者のハイデガーの言葉を引用しながら、災害からの復興にあたって物理的なものの再生だけではなく、「引き裂かれた文化的な関係や精神的ダメージを修復」し、文化的景観を形づくることの重要性を位置づけている。訳者解題は示唆的である。リジリエンスの見方を、「人々を導く回復の物語」(誰のための回復なのかの視点)、「都市の固有性の発現」(俯瞰的に多様に捉える視点)、「パラダイムの揺らぎ」(長期的視点)の3つを明解におさえている。これらは「災害マネジメント」の文化を規定する柱である。今日東北復興過程にみられる「災害マネジメント」の文化的特徴といえば、例えば、「人命と財産を守る」の建前で巨大な防潮堤建設に巨額の予算を投入する反面、自己責任で命を守ることを前提に「ふるさと再生」の現地再建を本音で望む住民を排除する。これは「モノ・カネ・セイド」重視「ヒト・クラシ・イノチ」軽視の「災害マネジメント」の文化ではないか。都市のしなやかな回復の力(アーバン・リジリエンス)とは、空間的形態の再建の側面に加えて、住民の名状しがたい文化への内発的再創造の意欲に潜んでいることを本書は明らかにしている。
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紙幅の関係から、「リジリエントな東京―日本の都市における災害と変容」の章は省かれているが、原著によれば、阪神大震災後の教訓が十分に生かされていないことが指摘されている。即ち、市民が本気になって自分たちの暮らしの場にかかわり、減災まち育てに関する学習をすすめ、地域住民主体のまちづくり計画に赴くことの重要性が述べられている。そうした住民主体の学びとプランニングなしでは、破壊と再建のサイクルは庶民の暮らしを改善することとは無縁な状況を生むことになる。末尾の一行「都市とは、私たちが住まい、働き、遊ぶ場所だけでなく、人として生きること、お互いに対する究極の信頼を、表現する場なのである」は、災害からの回復にあたっての高い目標・基本理念を鮮やかに示す言葉として心に留まる。わが国の災害マネジメントの創発のために、研究者のみならず行政・実務者・住民等、幅広い読者に出会ってほしい書物である。
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