1.加速する東京一極集中
最近の本誌の特集でも、東京への一極集中と東京の発展振りを紹介するものが多く、わが国の国土計画は分散論が基調にあるものの、結果としては集中の歴史であるという指摘が、益々真実味を強めている。一時話題となった「東京の不満、地方の不安」というフレーズも消え、東京の繁栄振りが目立つ昨今である。
首都圏の移出入バランスを見ると、非製造業が8兆円の黒字と群を抜いており、製造業も2.7兆円の黒字となっている。経済のサービス化を繁栄して、行政機能、企業の本社機能、商業機能はもとより、情報発信機能、国際交流機能、金融機能、観光機能、コンベンション機能、学術文化機能などの集中が加速している。
そのことが東京の都市開発を加速させ、首都圏は近畿圏に対して、人口比で2.4倍であり、東京都内と大阪市内のストックベースの業務床は2.9倍となるが、2003年度のフローベースの業務床の増加面積は9倍にも達する。
また、ITの発達は、地域間の移動コストを少なくし、集積のメリットを強める。さらに集積による混雑現象のデメリットが、土地供給の増大による地価の下落から少なくなり、逆に経済規模の集中化によるメリットが大きくなっている。加えて、交通機関の発達が東京圏と他の地域圏との利便性・近接性を強めており、移動の時間コストのデメリットを弱めていることも集中を促進させている。
2.近畿圏と東海圏
首都圏以外で高次の都市機能サービスの担い手となるべき三大都市圏である近畿圏、東海圏の移出入バランスをみると、非製造業は近畿圏が0.5兆円の赤字、東洋圏が2兆円の赤字と、大都市圏としての都市サービス機能が弱くなっていることがわかる。近畿圏が、卸・商業機能の低下や神戸港などの物流機能の移転、京都などの観光の低迷から弱くなっており、工都である東海圏は元々非製造業が弱い。近畿圏と東海圏の非製造業が弱いことは、サービス業に代表される様々な都市機能面で首都圏との格差が拡大し、都市圏として自立的創造力が弱く、かつ、他地域から吸引力も首都圏に比して弱くなっている。逆に、製造業は、東海圏が9.2兆円と圧倒的に強く、国際競争力の強さが窺われ、近畿圏は3.7兆円に留まり、首都圏と同規模である。
近畿圏は、天下の台所といわれた「商都」であり、民間主体の顧客のニーズに敏感な企業家精神の旺盛な地域である。また、奈良・京都など世界遺産的歴史史跡・上方文化・医薬等学術研究機能面で優れた集積があり、加えて、わが国のナンバー2地域として位置づけられる優位性をもつとともに、大阪・神戸・京都など独自性の強い都市が連担している。このことは、引き続き様々な都市サービス機能が発展する可能性を保持している。しかしながら、近年製造業で素材産業・家電など海外への空洞化が進むことに加え、企業の本社移転も進んでいることから、事業所の減少数が全国一となり、地盤沈下に対する地元の危機感は強いものがある。
一方、東海圏は、ものづくりの「工都」として「カラクリ」に代表される伝統的な技術伝承を背景に技術開発力が強く、「カイゼン」に代表される現場重視の無駄のない合理的な生産システムが築かれ、自動車を中心に国際競争力の高い優れた産業集積が形成されている。コリンズのビジョナリーカンパニーで推奨されている地味ではあるが基本に忠実な、理にかなったことを着実に推進するシーズ重視の企業風土が形成されている。東海圏の企業は、地元を重視し、地元での強いネットワークを形成し、本社機能も地元に留まる傾向が強い。その一方で、都市機能面では、情報発信力が弱く、例えば都市別新聞掲載回数を見ると、名古屋は東京の8分の1であり、また、観光面での外国人旅行者の愛知県訪問率は東京の5分の1に留まるなど、都市としての魅力を高めることが課題となる。
3.緩やかな連携による新たな大都市圏の形成
大都市圏の都市機能については、居住する都市住民に対するサービス機能の充実が重要であることは言うまでもないが、製造業の海外移転の伸展の中で、都市の産業創出機能の役割が今後大きく期待される。特に、知識集約的な産業構造を構築するためには、都市型産業・機能の競争力を強めることが緊急を要する。
然るに、首都圏への一極集中の加速化に対抗するためには、近畿圏・東海圏においても、都市型産業・機能の強化により首都圏とは異なる国際的にも魅力ある地域づくりが必要である。このためには、各都市が既に集積されている人的資源・技術集積・風土特性を活用し、様々な分野で地域から全国に発信する独自の情報発信機能を強化し、首都圏とは異なる展開を図るべきである。例えば、愛知万博や阪神タイガースは地域発全国向けの優れた情報発信となる。
近畿圏と東海圏は、わが国の地理的及び人口重心的に中心であり、歴史面文化面でも共通するものが多い。また、近接した地域として新幹線で一時間圏内にあり、道路交通アクセスもよい。従って、近畿圏と東海圏は、それぞれの地域特性を尊重しながら、緩やかな地域交流を高めることが可能である。研究開発で成長が期待される近畿のバイオ、医療や東海のロボット、ITSなど各分野で、強い競争力を持つ大学・研究所集積を中心に地域間の機能分担を明確化し、そこへの交流を集約化することにより、地域全体として都市の研究開発機能が強化できる。また、デザイン・コンテンツなど都市型新産業育成に関しては、近畿圏のニーズ指向と東海圏のシーズ指向の協働化による新たな発展モデルが構築できる。自治体の先進的モデルの三重県で、顧客志向的公務サービスが実現可能となるのは、東海圏と近畿圏の特性を併せ持つためである。さらに、インバウンドなど広域的多面的観光需要の増大に対して、東海の産業観光と近畿の三都物語観光をネットワークさせ、個性豊かな都市の連携による相乗効果の発揮が期待できる。
以上のように近畿・東海圏は大都市圏として首都圏と異なるタイプの発展が可能である。このことは、わが国の都市構造を東京一極集中から脱却させ、東海・近畿両圏を連担する経済・文化中核都市圏域を創出し、分権化時代にふさわしい交流を基本とする多様で柔軟な分散型地域社会の形成につながることが期待される。
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