竹井隆人 著
2005/08
 
集合住宅デモクラシー――新たなコミュニティ・ガバナンスのかたち
世界思想社(定価1,995円、2005.7)

 アメリカの緑豊かで、美しく、広いコモン(共用空間)を有する集合住宅「プライベートピア」、そして保安を求めるあまり、それを要塞化した「ゲーテッド・コミュニティ」。こうしたアメリカに興隆する集合住宅を、わが国では主に物理的な面からいたずらに賞賛、あるいは模倣する向きが顕著であった。
 だが、このような集合住宅を成立せしめた要因には、その居住区全体を管制する住民自治組織の存在がある。この住民自治組織は、居住者から対価として分担金を徴収し、警備、ゴミ回収、街路の保全、照明などといった公的サービスを遂行する。このように住民自治組織がいわば「私的政府」と化し、政治的権能を振るうことで、コモンの維持をはじめとした、居住区における安寧やセキュリティといった集団的価値の向上が図られるのである。
 本書は前記の如き、いままでわが国で試みられることのなかった政治的視点から集合住宅をとらえることの重要性や可能性を示唆したものである。まず、アメリカの集合住宅の背景にある、法律や金融などの諸制度を含めた、社会的および政治的構造の重要性を指摘する。その上で、わが国の集合住宅の実態を解説し、いま話題のセキュリティに言及しつつ、政治や社会の面で今後どういった思考をめぐらせ実践を試みることに意義があるのかヒントを提示しようとするものである。
 住宅は人間にとって生活の基盤であり地域政治との接点となるのであり、とりわけ、集合住宅はそこに居住する人間同士の関わりたる「共同性」が不可欠な場であることを指摘したい。そして、集合住宅の政治的側面にアプローチし、住民自治組織の存在に着目することで、わが国では未達の住民自治やデモクラシーを成就させ得る可能性のある、新たな「コミュニティ・ガバナンス」を呈示する。このような斬新かつ貴重な切り口を提供する本書は、集合住宅研究や政治学研究の新しい地平を拓くこととなるだろう。
 
<目次>
序論 デモクラシーの模索
集合住宅と政治/政治をともなう集合住宅/民主主義の学校
第1章 私的政府によるプライベートピア
ハワードの遺産/プライベートピアの誕生/CIDの権利態様/制限約款/業界の奉仕者/私的政府の権能/ユートピアとしての郊外
第2章 プライベートピアの課題
マッケンジーによる批判/二重課税/アメリカの分裂/不参加の文化/抑圧的な制限約款/ステイト・アクションの法理/主権免責
第3章 「制限」による政治
「制限」の意義/わが国における集合住宅開発/制限約款の模倣/土地所有=建築自由の原則/高層化と二元的所有
第4章 保安の探求
郊外の黄昏/要塞の構築/要塞化の歴史/ゲーテッド・コミュニティの類型/要塞心理とデベロッパーの論理/「安全神話」の崩壊/コモンの帰属/超高層マンション(究極のゲーテッド・コミュニティ)/「お上」意識
第5章 もう一つの集合住宅
アメリカのコウオプ/二つの流れ/所有権的リース/ヒラリーの誤算/エクイティとデット/税制と助成/わが国のコーポラティブ方式/竣工すれば卒業する/「制限」の受容
第6章 コミュニティからガバナンスへ
コミュニティの希求/共同体主義/サステイナブル・コミュニティ/近隣の相互交流/コーポラティブ方式の隘路/共有地の悲劇/ジョン・ロックと信託/ガバナンスと参加
第7章 集合住宅と「公共性」
共同性と公共性/境界線のない政治/同質性と公開性/保安圏型コミュニティ/責任をめぐるプライヴァティゼーション/分権と集権をめぐって/リバタリアンによる反論/原子化と自立化/新たな「公共性」
結語 集合住宅からデモクラシーを考える
信頼社会の構築/ライト型コーポラティブ方式/タウン・セキュリティ/私的政府と「制限」/都市政治の未来
(月刊『地域開発』編集部)

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