<まちづくり散歩>
2005/08
 海士中学校の修学旅行は一橋大学で講義
■「海士町(あまちょう)へござらっしゃい!」
編集部 吉成雅子

 平成の大合併の中で島根県隠岐郡海士町(あまちょう、6月末の人口 2,515人)は3島合併をせず単独で生き残りにかけることを選んだ。町の職員も給料が20%カットの上、財源は自前で生み出さないとならない。町全体が一つになって愛する海士町を売り出そうと、役場は「キンニャモニャの変」と名づけられた施策を引っさげ、最先端のCAS冷凍技術によるイワガキ、シロイカなどの特産物を地域ブランドとしていかに育て上げるかに取り組んでいる(『地域開発』2003年9月号「離島から特産物を売る」参照)。この産業振興、町の再生に海士中学校2年生23名が一役買うことになった。
 海士中学校の修学旅行は東京である。しかし、ただ東京を見学するだけでなくもっと実のあるものを生徒に体験させられないかと関係者が考え、外との交流を通じて自分たちの町を見直すことを学んでもらおうということになった。そこで、文教と個人の力による福祉の先進都市である東京国立市が候補にあがり、留学生も多いので生徒に異文化との出会いから逆に日本を知るような体験研修がないかと探していたところ、何人もの人の輪がつながり、6月23日、修学旅行の1日を国立のシンボルでもある一橋大学で講義(海士町の紹介)をするという話になった。
 大学側の受け入れは島根県新産業創造ブレーンでもある一橋大学大学院関満博教授率いる関ゼミの面々。関教授の生徒たちへのもてなしとしては「夢と希望を土産に持たせるべし!」。ゼミ長の竹井一馬さんが指揮を執って5時間のプログラムを組んだ。昼過ぎに大学へ着いた一行は、会場の下見のあと、ゼミ学生との昼食と構内の見学を交流の第一歩にいよいよ海士町の売込みが始まった。
 実はこの生徒たち、その夜は国立でホームステイをすることになっており、一晩のお父さん、お母さんもこの発表を聞きにこられていた。ホストに手をあげてくださったのは「くにたち国際交流協会(代表榎本徹夫氏)」の方々で、主に留学生の支援をするボランティア団体である。
講師(生徒)到着!引率の先生(左)と出迎えた関ゼミのリーダー(中央) 国立市民、大学関係者他で満員となった会場で講義が始まる 第1班「海士町ってどんなとこ?」
講師(生徒)到着!引率の先生(左)と出迎えた関ゼミのリーダー(中央) 国立市民、大学関係者他で満員となった会場で講義が始まる
第1班
「海士町ってどんなとこ?」
 数十人分の席が用意された会場は立ち見も出るほどの盛況で、そろいの黄色いはっぴをつけた生徒たちはやや緊張気味(引率の羽根田先生のほうがもっと緊張してたよう?)。男子生徒はそれに玉絞りの手拭いで鉢巻をしてなかなかりりしい。8つの班に別れ、海士町の位置、農業、産業、歴史、文化、自然、釣り、見所をそれぞれ10分ずつパワーポイントを使って紹介していく。この講義には生徒たちが作成したそれぞれのテーマごとのパンフレットが配られ、手作りの温かみと町を想う気持ちが伝わってくる。
 発表の後、「なにか質問はありませんか?」と問いかけると、会場から次々手が挙がる。1班には「東京から何時間くらいかかりますか」との質問に、道のりを思い出しつつ「3時間!」、すかさず会場から「3時間でこれたの?」と、どうやら乗り物の時間しか勘定しなかったようで「5時間くらい」と訂正。「デートスポットは?」と聞かれてリーダーの葛西君、仲間と頭を寄せ合った挙句「まだ彼女がいないからわかりません」とはにかみながらの回答に、緊張気味だった生徒たちも気持ちがほぐれたようだし、会場にも一気に海士町に親しみを感じる雰囲気が広がった。
第2班「農業」 第3班「産業」
第2班「農業」 第3班「産業」 第4班「歴史マップ」
アイガモ農法のコシヒカリ、海士牛、こじょうゆみそなどの特産物の紹介。 塩づくりや、さざえカレー・イワガキなどの海の幸を活かした産業を紹介。 海士にゆかりの人物と史跡を紹介。
 特産物を中心に農業と産業を紹介したのは2班、3班。アイガモを田んぼに入れると草取りや害虫駆除の役に立ち、フンは養分となる「アイガモ農法」があると紹介されたが、「そのアイガモどうなるの?」と会場からの声には「食べます!おいしいです」とニッコリ。1年間ご奉公させたら食べちゃうそうだ。
 流人だった後鳥羽上皇や小野篁、海士を訪れ本に書いた小泉八雲(「知られざる日本の面影」)などを紹介した4班には「そのうちだれが好きですか?ごとばんさん1)?」との質問にちょっと言葉に詰まりながらも「嫌いです」。「なぜ?」「海士町の人は罪人としてではなく、上皇に接してもてなしたのに都のことばかり思っていた」と、ちょっぴり悔しそうな様子が見えて、発表のために歴史をたどって町に対する誇りと愛情を改めて強くしたのではないかと思われた。
第5班「風俗・文化」 「鈴太鼓」の踊り 「しげさ節」 「なべぶた踊り」(男踊り)
第5班「風俗・文化」 左から、見事な「鈴太鼓」の踊り、「しげさ節」(小皿を持った女踊り)と「なべぶた踊り」(男踊り)。
 5班は、「キンニャモニャ」というおまじないのようなことばのいわれ2)や名物爆弾おにぎりの作り方、上皇をお慰めしようと始まった闘牛「牛突き」の紹介につづいて伝統芸能を披露。小道具を巧みに使っての踊りで会場からはひときわ大きな拍手があがった。
 6〜8班は海に囲まれた海士町ならではの自然の楽しみ方や美しい風景と、豊富な海の幸の話にこの夏は海士町へと思った方も多いと思われた。釣りにチャレンジしたい方には、釣り名人の銭谷君が指南役をしてくれるに違いない。
第6班「自然」 第7班「釣り情報」 第8班「見所」
第6班「自然」 第7班「釣り情報」 第8班「見所」
半潜水型水中展望船「あまんぼう」で神秘的な隠岐の海底を、船からは奇岩「三郎岩」を、また、名水百選の「天川の水」を楽しんで下さい 。 昨年123cmのスズキが釣れた。グレ、真鯛、メバル、チヌなど釣り好きも初めての方もぜひ来てください。(1日で最高100尾釣った人も!) 女神がお産をしたといわれる明屋海岸は自慢の風景。海でのダイビングも楽しめるし、珍しい「いわがきホットサンド」を味わいに来て!
 最後に、生徒全員がしゃもじを持ち、キンニャモニャの唄にのって踊り、関ゼミの学生も加わって祭りの雰囲気となった。後を受けた海士町役場によるビデオ紹介で海士町側の発表が終わると、会場にみえていた上原公子国立市長から生徒たちに国立の誇りである三つのこと、障害者が多いが助け合える風土があること、堤康次郎による学園都市として出来た新しい街であること、市民が桜とイチョウを1本おきに植えた美しい大学通りがあることが紹介され、校長先生、町長さんの挨拶でプログラムは終了した。
キンニャモニャ
キンニャモニャ
 生徒たちの「講義」は、一生懸命で会場の人たちは海士町を応援しようという気持ちになったと思う。そしてなにより、生徒たち自身が自分の住む町のすばらしさを再認識できたのではないかと思われる。この日のためにずいぶん準備をしたと感じられたが、会場からの質問は予想されたものばかりではなかったようで、生徒たちが答えに窮する場面もいくつか見られた。人に聞かれるとものごとがよく見えてきたり、今まで気づかなかったことに気がついたりするものだ。質問を受けてさらに町への想いを深め、それぞれの心に大切にすべきなにかが残ったのではないだろうか。今回の体験が彼らに「夢と希望」を与え、もっと町をよくしたいという気持ちが育って、将来の海士町を担う人となってくれることを期待したい。
 生徒たちはこの後、国立駅前のスーパー「三浦屋」で、パンフレットを配り、呼び込みをしてシロイカやさざえゴハンの販売を手伝い、それぞれのホームステイ先へと向かった。
 がんばれ海士町!!

(よしなり・まさこ)


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