高田昇 著
2005/10
 
まちづくりフロンティア
オール関西株式会社(定価2,100円、2005.4)

 各地のまちづくりにおけるキーパーソンとの対談を中心に構成されているので当然ともいえるが、まちづくりで重要なのは人の役割であることを改めて認識させるのが本書である。加えて、東京を本拠地に地方へ出かけるパターンをとる評者には馴染みが薄くなりがちな関西、とりわけ大阪の事例がふんだんに取り上げられているのは新鮮で、ありがたかった。
 評者はかねて、来街者数を競ったり、サービス役に徹して来客に媚びるような臭いのする“まちづくり”には疑問を感じてきた。住んでいる人が楽しそうで、満足そうにしている様子を見れば、誘われなくても、ちょっと覗いてみたくなるものだ。まちに好奇心を抱いた人たちに、お裾分けをするような気持ちが貫かれた観光や町おこしがあってもいいと思っていた。「今住んでいる人たちがいかに豊かに歴史的な流れの中で生活しているかが大事。篠山の生活にふれてみたいという人が観光にやって来るわけですから」(70頁)。「現代の『技』で生きる上質のふるさと」と題して取り上げられている兵庫・篠山の丹波古陶館の館長を務めた故中西通氏の言葉である。中西氏は、親子2代にわたる丹波焼のコレクションを紹介するために丹波古陶館を創立し、2代目館長として館の充実に尽くした。また、1861年建立の能舞台を保存し、毎年篠山春日能の催しを続けてきた。さらに、都市計画街路が安易に歴史的建物を壊して作られようとするのに、「戦前と戦後に建ったものを比べると、戦後に建ったものにろくなものはない」(71頁)と反対して、郷土の歴史が刻み込まれた建物を保存し、かつその活用に当たった。こうした中西氏のまちづくりが、篠山にどのような影響を与えて、生き続けているのか、その後の展開をぜひ現地で実感したいという思いに駆られる。
 
 折角篠山に行くのなら、ついでに大阪もじっくり見てみたい。試みに、本書で取り上げられているアメリカ村をインターネットで引くと18万件もヒットする。1969年に日限万里子氏(故人)が開いた一つのカフェが広がった。今では東西は御堂筋からなにわ筋にかけて、南北は船場から道頓堀川へとアメリカ村が浸透している。かつて大型店のある心斎橋側にとどまっていた人の流れが、大河のような御堂筋を超えて西側に流れるようになった。しかもアメリカ物の古着からスタートした村には3年おきくらいに変化が現れ、現在は、ミナミを代表する繁華街というイメージが強いようだ。店は変化し、まちも変わる、という商業系のまちづくりの原点を現代に見るような話だ。
 この他、自由が丘や川越から竹富島、さらにバリ島にまでインタビューは及び、インタビューが行われた世紀の変わり目の日本のまちづくりリーダーの発想と活動を記録した格好の書になっている。短いインタビューで、リーダーたちの核心に迫ってキーワードを引き出しているのは、著者の高田さんが、まちづくりの専門家であるとともに、文筆家としても優れたセンスを持っているからに違いない。
(『地域開発』編集長・大西 隆)

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