『地域開発』500号記念懸賞論文 選考結果発表
2006/05
 審査委員会

<受賞者>
■最優秀賞  該当者なし
■優秀賞(10万)・特別賞(20万)
(共著)
樋口 栄治(長岡商工会議所専務理事・59歳)
松川 寿也(長岡技術科学大学研究生・29歳)
  「大規模商業施設の立地に伴う土地利用計画見直しの問題点
  ――郊外大型店進出を受けた都市計画マスタープラン及び農用地利用計画の見直しの事例を通じて」
■優秀賞(10万)(以下4件)
(五十音順)
饗庭  伸(首都大学東京都市環境学部建築都市コース研究員・35歳)
  「都市をたたむ時代のアーバンデザイン原理」
栗山 隆治(カフェKURI KURI経営・41歳)
  「人口減少社会を幸せに生きるために」
寸田 英利(埼玉県県土整備部河川砂防課企画調査担当・33歳)
  「人口減少時代の地域開発について」
中川 智之(株式会社アルテップ取締役・チーフマネージャー・46歳)
  「人口減少時代の地域開発――郊外住宅団地の再生に向けて」
※受賞論文は6月号に全文掲載いたします。
 本誌2005年10月号で公募した『地域開発』500号記念懸賞論文(人口減少時代の地域開発)には、1万字というしっかり取り組まなければまとめきれない分量を求めたにもかかわらず、全国から29編の応募がありました。いずれも人口減少時代という新しい時代の地域開発を考察した力作で、読み応えのある論文でした。委員一同、改めて、応募者の方々に敬意を表し、お礼を申し上げます。
 選考は、委員による事前査読の上、合議と投票を繰り返して行いました。その結果、上に掲載したように、最優秀賞は残念ながら該当なし、代わりに優秀賞には予定を上回る5点を選考し、そのうちの1点は特に現代の政策課題に深く切り込んだとして併せて特別賞を差し上げることにしました。また、来る6月23日(金)に、受賞された方々をお招きして都内で授賞式を行うことになりました。受賞者の皆さんおめでとうございます。
 さて、全編を通じて感じられたのは人口減少時代のとらえ方の多様さです。人口減少時代には少子化対策が重要になるとして子育て環境の拡充に焦点を当てた論文から、日本に比べればはるかに少数の人口で国を成り立たせている海外の事例を素材とした論文等、人口問題を正面に据えたものから、人口は背景において、地域社会での人のつながり、社会システムの改善など、人間本位の地域社会を形成する方策を論じたものなど、人口減少社会のとらえ方は様々でした。もちろん、審査にあたっては、多様さをそのまま受け入れて、何らかの形で人口減少社会を意識した論文は応募作品としての資格ありとしました。
 さて、受賞作品です。はじめに、特別賞も受賞した樋口・松川さんの論文は、超大型店の郊外立地が地方都市に与える極めて深刻な影響を、地域商業、税収、雇用などの観点から実証的に分析して、広域的かつ合理的な観点から適切な土地利用規制が求められることを主張したものです。実証的分析に不可避なファクトファインディングスと政策提言の間のギャップからは免れない点はあるものの、今日的なテーマの重要性を改めて浮き彫りにした読み応えのある優れた論文です。ただ、評者としては、大型店に対抗するような迫力ある地元商業者の活動を如何に引き出すのかという点にも言及しなければ消費者=市民本意の解決策は得られないのではないかという疑問を禁じえません。
 饗庭さんの論文は、人口減少時代には都市を計画的に縮小させる必要があるとし、それを「都市をたたむ」という独特の概念で表現したユニークな論文です。都市の縮小は拡大過程と同様、場所によっては相当ドラスチックで、かつ拡大過程と異なり市場メカニズムが働き難いのです。その中で、どうすればうまくたたんでいくことができるのかを実証的に検証して立論できるとより有用な議論になるように思いました。
 栗山さんは、不可避的に訪れる人口減少社会を否定的にとらえないで、快適な高齢社会や人口の年齢構成に応じた人々の社会生活のあり方を論じています。例えば、高齢者と年少者が、世話をされる側とする側という関係ではなく、互いの存在を認め合うことによって多世代が共生する社会を作ろうと提唱しています。
 中川さんの論文は、まだ地域開発が必要かという「地域開発」という用語への疑問から始まります。そして東京圏の郊外を取り上げて、少子高齢化、人口減少などの人口問題がそのまま地域に反映されている状況を分析しつつ、住民主体の郊外コミュニティ再生を論じています。提案部分をもう少し詳しく伺いたい気はしましたが、大都市にも忍び寄る人口問題の重要さを提起しました。
 寸田さんは、社会人大学院生として研究した経験を生かして、地域開発の理論的概念整理を試み、地域開発においては物質的な豊かさから、非物質的なそれへと重点が移り、地域の魅力(ブランド力)を高めていくことが重要と論じています。こうした視点がお仕事の地域行政においても生かされるのが楽しみです。
 開発には、そのものが本来持っている潜在力を見出して生かすという意味があるのですから、地域開発は単に工業化や社会資本整備を意味するのではなく、時代の必要に応じて、地域の可能性を創造的に切り開く視点があっていいはずです。今回の応募論文を通じて、人口減少社会という日本全体としては未経験の時代を迎えて、世代間の協力、地域間の協力、分業化された仕事間の協力など、地域や国における相互協力の新しい枠組みのもとで、地域の様々な可能性を創造的に開拓していくことが改めて求められていることを感じました。

(文責 大西  隆)

<審査委員>
顧問 伊藤  滋 (財)日本地域開発センター会長、早稲田大学
委員長 大西  隆 (財)日本地域開発センター理事長、『地域開発』編集長、東京大学
委員 関  満博 (財)日本地域開発センター理事、『地域開発』編集委員、一橋大学
委員 矢作  弘 (財)日本地域開発センター理事、『地域開発』編集委員、大阪市立大学
委員 根本 祐二 地域開発』編集委員、東洋大学(前日本政策投資銀行)

記事内容、写真等の無断転載・無断利用は、固くお断りいたします。
Copyright (c) Webmaster of Japan Center for Area Development Research. All rights reserved.

2006年05月号 目次へ戻る